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カリスマの直言

米中摩擦は米優位 景気好転を読む市場(武者陵司) 武者リサーチ代表

2019/6/3

これに対して中国が受ける影響は甚大である。トランプ氏が主張するように中国経済は25%関税に耐えられないのではないか。中国の対米輸出は輸出全体の20%だが、対米経常黒字は4011億ドルと巨額。18年の経常黒字全体は491億ドル(貿易黒字は3952億ドル、うち対米黒字は4193億ドル)なので、中国の外貨はもっぱら米国輸出によって稼がれているといえる。

■対米黒字の急減は中国経済の急所に

このため対米輸出の急減は中国に外貨不足を引き起こす公算が大きい。外貨準備のほぼ半分を海外資本に頼っており、資本流入も15年以降大きく減っている中国にとって、対米貿易黒字の大幅な減少を許容する余地は乏しいだろう。関税引き上げが実体経済に影響を及ぼさないうちに、譲歩せざるを得ないと筆者はみている。米国の要求を受け入れて不公正慣行の是正策を制度的に定めたうえで、関税引き下げを求める可能性が大きい。

中国の巨額の対米貿易黒字はいずれ大きく減少せざるを得ないが、それが直ちに起きれば外貨準備の急低下と中国企業のドル調達不安という事態を招きかねない。これは中国が何としても避けねばならないアキレスけんだ。

米国の狙いはフリーライドによる中国の台頭抑制であり、中国経済の崩壊ではない。中国の譲歩のあとには大きな景気の山が待っているのではないか。米中通商協議が合意されれば、需要の押し上げ効果も起こりえる。中国での設備投資は18年末に米中貿易戦争への懸念から一旦ストップしたが、米中の最終需要が失速する可能性が後退すれば、設備投資の一時停止は供給力の鈍化をもたらし、将来的には需給逼迫の可能性を高める。米中経済が浮揚感を強めれば、両国に輸出している日本やドイツ、韓国などの景気も押し上げる効果が見込めるだろう。

■米中摩擦の影響、市場は織り込む

米中通商協議の合意を前提に、米国と中国の株価は19年1~4月に大きく上昇した。その後は調整局面が続いているが、対中制裁関税とファーウェイへの禁輸で米国の主な強硬策はひとまず出そろい、世界の株式市場はこの2つの問題の影響をほぼ織り込んだといえる。

米国も中国も貿易戦争と覇権争いが激しくなるほど、自国の株価を引き上げることで信用創造と需要拡大を図り、結果として世界経済におけるプレゼンスをより高めるという方向に向かわざるを得ないだろう。米中貿易戦争がもたらす帰結は、最終的には世界経済の悪化や資産価格の下落ではなく、逆に株価と経済を押し上げることに結びつく可能性が高いと筆者はみている。

武者陵司
武者リサーチ代表。1949年長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券入社。企業調査アナリストを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト。97年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長。09年武者リサーチ設立。著書に「超金融緩和の時代」(日本実業出版社)など。

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