体の健康を保ち、いつまでもパワフルに働くには、正しい運動と食事、そして休息のバランスが取れた生活が必要だ。そこで、著名なフィジカルトレーナーである中野ジェームズ修一さんに、遠回りしない、結果の出る健康術を紹介してもらおう。今回は「粗食」と「断食」について。どちらも健康効果があると思っている人が少なくないが、果たしてそうだろうか。
「最近体重が増えてきた」「お腹周りが気になる…」と思ったとき、多くの人が最初に思いつくのがダイエットだ。食事の量を減らしたり、野菜中心の「粗食」にしたり、あるいは何食か抜く「断食(ファスティング)」を試みる人もいるだろう。
フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんは次のように指摘する。
「特に女性の方に多いのですが、私たちトレーナーから見て、そもそも太っていないのに、ご自分で太っていると思い込んでいる人がいます。そういう方々の多くは、いくら『太っていないですよ』と言っても、なかなか聞き入れてもらえないんです」(中野さん)
極端な粗食や断食に走ると、栄養不足に陥って様々な障害を引き起こしてしまう。それは、自分が太っていると思い込んでいる女性だけではない。
「例えば、1日の摂取カロリーが4000kcal以上もあって、体重が増え過ぎて健康上の問題が起きている人が、摂取カロリーを抑えるのは良いことです。でもそれは、医師の指示があり、管理栄養士などによって正しい栄養指導ができていることが前提です。それなのに、自己流で始めてしまうと、栄養が偏ってしまうことが意外と多いのです」(中野さん)
摂取カロリーを抑えるためにも、野菜中心の「粗食」が体にいいと思っている人は多いだろう。確かに、野菜はビタミンやミネラル類が豊富なので、一見、健康的なように感じる。だが、そのような粗食を続けていると、体にはどのようなことが起こるだろうか。
「人間が生きて行くためには、最低でも1日におよそ1800~2000kcalのエネルギーが必要です。エネルギーが食事として外部から供給されなければ、体は体内にあるもので補おうとします」(中野さん)
食事から供給されるエネルギーが不足した分だけ、体に蓄えられた脂肪が燃焼されればいいのだが、そう都合よくはいかない。人間の体には、たんぱく質を分解して糖を作り出す「糖新生(とうしんせい)」という仕組みがあり、これは栄養学の世界では「体たんぱく質分解」と呼ばれている。
糖新生において、最初にその標的にされるのが、大量のエネルギーを消費する「筋肉」だ。大食いの器官の働きを抑えて、その分のエネルギーを生命維持に必要な脳や内臓を働かせるために回すようになる、というわけだ。
「筋肉を動かすためには、カルシウムなどのミネラルも必要です。それが食事から得られないとなると、今度は骨を分解して補うようになってしまいます。つまり、骨密度が下がるんです。ですから粗食を続けていると、筋肉量や骨量が低下していく恐れがあります」(中野さん)
ビタミン、ミネラル、食物繊維だけでは完全に栄養不足
結局のところ、健康のためには「五大栄養素」をバランスよく摂取する必要がある。ここでいう五大栄養素とは、「たんぱく質」「炭水化物」「脂質」「ビタミン類」「ミネラル類」のことだ。