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至高の茶を求める旅 中国5000年の歴史が育んだ味

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

香りの良い新茶が出回る季節となった。水を除けば、茶は世界で一番よく飲まれている。紀元前2737年、中国の神農という伝説上の皇帝が湯を沸かしていたところ、器の中に偶然茶葉が入ったのが始まりとされる。それから4700年、茶は全世界に広がった。インドやネパール、日本、ケニアほか多くの国々で茶葉が栽培されている。今回は、写真とともに、米国人作家と最上のお茶を求める旅に出てみよう。

◇  ◇  ◇

緑茶、ウーロン茶、紅茶、白茶など、茶には様々な種類があるが、すべては同じチャノキ(Camellia sinensis)から作られたものだ。長い歴史のなかで、茶は貨幣や献上物として使われたり、貴重な農産物として税金をかけられたりもしてきた。

私、リサ・シーは、最上の一杯のお茶を求めて、中国を旅することにした。私は子どものころから茶を飲んでいるが、専門家ではなく作家だ。そこで、茶のスペシャリストに旅の案内役になってもらうことにした。それが、ネットのプーアル茶専門店「版納茶荘」のリンダ・ルーイ氏、茶の輸入販売業を営むジェニー・ドッド氏、そしてネパールで茶園と加工工場「ホライズン・パルドゥ・バレー・ティー」を経営するブッダ・タマング氏の3氏だ。

私たち4人はまず、中国広東省広州に集合し、茶の専門店が軒を連ねる世界最大の芳村茶葉市場を訪れた。その後、雲南省へ移動。最終的には、孟海(モンハイ)という小さな町を拠点に各地の茶山を訪れることにした。

1キロ90万円のお茶

翌朝、ホテルで中国の伝統的な朝食をいただくと、ロビーで茶の大家、陳国義(チェン・グオイー)氏の到着を待った。陳氏は、まるで映画スターのように堂々とした空気をまとって入ってきた。デニムシャツの裾を出し、歩くたびに大きく波打つワイドパンツを合わせ、カンフーシューズを履いて軽やかな足取りでロビーを横切る姿に、人々の目はくぎ付けになった。一緒に写真を撮ってもいいかと申し出る人もいた。そう、陳氏は有名人なのだ。

最初に、陳氏の経営する広州八八青干倉茶葉公司へ案内された。そこで、パートナーのリウ氏が茶の試飲を指導してくれた。蓋碗と呼ばれる蓋つきの試飲用茶器と、小さな茶碗にお湯を注いで温める。その湯を捨てて、蓋碗に茶葉を盛る。「プーアル茶の王様」とされる老班章産のプーアル茶で、男性的な力強い香りが特徴だ。1キロ8000ドル(90万円)の値が付くこともある。

ところがリウ氏は、値段のことなど気にするそぶりも見せず、あふれんばかりに注ぎ入れる。豊かさを象徴する注ぎ方なのだそうだ。これほど高価で、これほどおいしい茶を私は口にしたことがなかった。

陳氏は、プーアル茶の独特な回甘(フイガン)を感じるようにと促した。茶を口にすると、喉の奥からミントのようなさわやかな感覚がこみ上げ、口の中に広がるのを感じた。祖母がいれてくれた市販の紅茶とはまるで違う。

通常、茶葉は広大な茶園の段々畑で摘まれるため、一貫して同じ味が出せる。それがアールグレイになるか、正山小種(ラプサン・スーチョン)になるか、イングリッシュ・ブレックファストになるかは、加工と後処理によって変わる。

一方プーアル茶は、雲南省南部に自生するチャノキの老木から採られるが、このなかには樹齢数百年から千年を超す木もある。人間は水やりもせず、肥料も与えず、農薬もかけない。それぞれの木が自力で数百年もの間生きてきたため、木によって味も異なる。

そんなプーアル茶の最大の特徴は、時の経過とともに熟成し、性質が変化することだ(自然に発酵させるものと、人工的に発酵を加速させたものがある)。ワインのように、時がたてば価値も上がる。10~50年物のプーアル茶を収集して楽しむ愛好家もいて、数グラム1万ドル以上で取引されることもある。

陳氏は、孟海県にある茶馬古道風景区へ案内してくれた。ここでは、観光用の段々茶畑、再現された倉庫、加工室、人や馬の宿屋、交易に使われた品々の展示が見られる。1000年以上にわたって、人々は雨の日も雪の日も、暑さや湿気にも負けず、重さ70キロの茶を背に担いで首都、香港、広州、ベトナム、ミャンマー、インド、そしてタイへ向かった。

最も重要な行先は、チベットだった。ここで茶は戦馬と交換された。これが、茶馬古道の名の由来である。この交易路は日中戦争勃発まで使われていたが、戦争で兵士の移動や医療品の運搬に使用されるようになった。第二次世界大戦が終了し、中国国内で内戦が始まるころには、茶馬古道は茶の交易路としての役目を終えていた。

歴史を飲む

2日後、私たちは南糯(ナンノウ)山にいた。ここで、事前に約束をしていた少数民族アカ族のアートゥさんの家を訪れた。アカ族は、高品質の茶を生産することで知られている。

もてなし役は、アートゥさんの妹のアーブさんだった。4本の竹の支柱と藁ぶき屋根の茶室で、アーブさんは近くの泉で汲んだ水で茶を淹れた。それから足を崩して座り、膝の上に手を組み、茶の話をした。収穫期は、1日10~20キロの茶葉を摘むという。「ゆっくりと丁寧に摘みます。お茶は、神様からの贈り物ですから」。茶を飲む私たちに、南糯山でとれる茶葉にはほんのり甘味がかった花のような味わいがあると説明する。「皆さんは、歴史を飲んでいるんですよ」

過去10年間で起こった変化が、茶山にどんな影響をもたらしたかと聞くと、ほほ笑みながら「以前は、ここのお茶は全く知られていませんでした」と答えた。「私たちは休みなしに働き、どこへ行くにも歩いていかなければなりませんでした。太った人は誰もいませんでした。12年ほど前から、生活が楽になりました。その頃電気が引かれ、初めてのテレビを買いました」。アーブさんは、自分の金を使って初めて家族のために洗濯機を購入した。

その後、手作業による茶葉の加工工程を一つひとつ見せてくれた。親指と人差し指の腹で茶葉をつまんで摘み取り、かごに入れ、広げて天日干しにする。「太陽の香りを葉に吸い込ませるんです」。それを今度は、燃え盛る火の上に置かれた巨大な鉄鍋に入れて、緑色の部分がなくなるまで焙煎する。強い香りが立ち上り、茶葉がぱちぱちと音を立てる。

私たちも手袋をした手で熱い鍋を撹拌し、葉を持ち上げてはふり落とした。重労働だったが、次の作業はそれ以上にきつかった。熱い茶葉を竹で編んだマットの上に置き、パン生地のように手でこねてさらに水分を絞り出す。これを広げて一晩寝かせる。「お茶が好きでないと、おいしいお茶は作れません」と、アーブさんは言う。

車で山を下りると、今度は易武(イーウー)へ向かった。かつて六大茶山で採られた茶葉は易武に集められ、ここを始発点とする茶馬古道を通って各地へ運ばれた。女性的で輝くような味が魅力の「プーアル茶の女王」の産地としても有名だ。

易武には40の茶工場があり、それ以外にも多くの小規模な加工場がある。住人は誰もが茶を摘み、自宅で加工する。ここで私たちは、かすかにあんずの味がする高価な茶から、1キロ5ドルの安い茶まで口にした。安い茶は、熟していない柿の実を食べた時のような渋みが口に残った。

最終日、茶馬古道の出発地点を訪れた。まるでタイムマシンで昔に戻ったかのような気分だった。数百年前に建てられたレンガ造りの家がそのまま残されていた。曲がりくねった通りを歩いていくと、いたる所に平たい籐の籠が置かれているのが目についた。中には、摘まれたばかりの茶葉が広げられて、天日干しにされていた。

家の前や庭には民族衣装を着た女性たちが座り込んで、加工された茶葉を山のように盛り、その一枚一枚を等級や色に従って選別していた。気が遠くなりそうな作業だが、どこを見ても、女性たちはおしゃべりをしたり、歌を口ずさみながら、何時間も緻密な作業に没頭していた。

茶馬古道が始まる広場へやってきた。大きなクスノキが木陰を作っている。その昔、同じようにクスノキは広場に陰を作り、幅1.5メートルほどの石畳の古道には、馬のいななき、手綱に付けられた鈴の音、男たちの呼び声、焚火で肉を焼く音、重い荷を担ぎ上げる運搬人たちのうなり声が響いていたのだろう。今、その喧騒が消え去った広場は寂しさすら感じられる。クスノキの枝には数人の子どもたちがぶら下がって遊び、古道では歯のない老人が曲がった腰を手作りの杖で支えながら、午後の散歩を楽しんでいる。

雲南省は観光業で破壊され、昆明は近代化を突き進み、大理は魅力を失い、虎跳峡と麗江は混雑しすぎだ、と人々は言う。だが、シーサンパンナの雄大な自然と深い文化体験は、今もほぼ手つかずのまま残されている。茶は、その世界を探訪する1つの手段だ。

熱心な茶の愛好家は、茶を本当に楽しむには一生かけて研究し、身をささげなければならないというかもしれないが、もっと基本的なレベルで茶を体験することだってできる。中国のどの通りを歩いても、どの家庭の台所を訪ねても、またどの結婚式へ行っても、「茶を飲んで友になる」という格言が理解できるだろう。

次ページでも、至高の茶が生まれる町の写真を見ながら、古来から茶が結ぶ人と人とのつながりを感じてみよう。

(文 LISA SEE、写真 TUUL AND BRUNO MORANDI、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[日経ナショナル ジオグラフィック 2019年4月29日の記事を再構成]

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