買い換えたのは何年前 低迷パソコン市場の打開策は?
大河原克行のデータで見るファクト
自宅にあるパソコンをいつ買ったか覚えているだろうか。「確かWindows XPのサポートが終わるときに買ったような……」という方は、少なくとも5年以上は前のことになる。実際、内閣府が発表した消費動向調査によると、2人以上の世帯におけるPC(パソコン)の平均使用年数は7.0年となった。
2009年の調査では、5.3年であったことと比較すると、この10年でかなり長期化していることがわかる。
これは先進国のなかでも異例で、日本マイクロソフトによると、「欧米の先進国では、PCの買い替えサイクルは3~5年。日本の買い替えサイクルの長期化は突出している」と指摘する。
「特需」後に強い危機感
買い替えサイクルの長期化は、PC需要の低迷にもつながっている。
電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2018年度(2018年4月~2019年3月)の国内PC出荷実績は、739万8000台となった。Windows XPのサポート終了と、8%への増税が重なった特需によって、過去最高を記録した2013年度(2013年4月~2014年3月)には、1210万900台であったことと比較すると、わずか6割にとどまる。同調査には、2013年度は11社が統計に参加していたが2018年度は8社と減少している。そのため直接比較はできないが、市場の低迷ぶりは顕著だ。
ただ、2019年度の場合、2020年1月に予定されているWindows 7のサポート終了を前にした買い替え需要や、10%への消費増税前の駆け込み需要が見込めること、働き方改革を追い風に、テレワークやモバイルワークに最適化したPCへの買い替え需要が顕在化しているなど、明るい材料はある。実際、法人向けPC市場は、前年比2桁増で成長。個人向けPC市場もようやく回復基調に転じた。
だが、業界内には危機感が根強い。
2020年1月以降には、Windows XPのサポート終了時と同様に、需要が一気に減少すると見込まれるだけでなく、その後は、特需が期待できない市場構造へと変わるからだ。
最新OSとなるWindows 10では、WaaS(ウィンドウズ・アズ・ア・サービス)と呼ぶ考え方を導入し、随時、アップデートを繰り返して進化。最新環境に移行しておけば、ずっとサポートが継続され、新たなOSに買い替える必要がなくなる。つまり、2020年以降は、数年おきに訪れていたOSのサポート終了による特需がなくなり、特需に頼らない安定的な需要を創出する必要が出てくるのだ。
その点で、先進国に比べて長期化している買い替えサイクルを、短縮することが、日本のPC業界にとっての大きな課題になっている。
「モダンPC」の魅力が伝わっていない
では、なぜ、日本は、PCの買い替えサイクルが長期化しているのだろうか。
そのひとつが、最新機能を搭載したPCの魅力が伝えきれていないという点だ。これは、業界関係者に共通した意見でもある。
日本で最も売れているPCは、15型の液晶ディスプレーを搭載し、HDDや光学ドライブを搭載したノートPCであり、PCとして必要とされるインターフェースはひと通り搭載。重量は2kg以上で、家の中の移動やほぼ固定して利用するといった用途が中心だ。いわば、「全部入り」と表現されるPCであり、使うか、使わないかはともかく、必要と思われる機能をすべて搭載した、日本人好みのPCである。そして、このPCを長期間にわたって利用しているケースが多い。
日本マイクロソフトでは、「メールやウェブ検索、動画視聴、ワードやエクセルが使えれば、それでいいと考えるユーザーが多い。だが、最新のPCでは、AI(人工知能)の機能を活用した顔認識機能によって、蓄積した大量の写真から、子供が写っている写真だけを抽出したり、ワードの文書を60カ国以上の言語に直接翻訳したりといった使い方もできる。さらに、今後の働き方はコラボレーションを中心としたものになると言われるなかで、最新PCでは、それに最適化したツールも搭載している。小学生が社会人になるときには、65%の職業がなくなり、新たに生まれる仕事の多くが、ITやクラウド関連に付随する職種になると見られている。子供の教育のためにも、最新PCを利用することを薦めたい」とする。
また、最新PCであれば、薄型、軽量、長時間バッテリー駆動を実現したり、タブレットにもなる2in1型の構造を採用することで、モバイル利用にも最適化したりといった特徴を持つほか、フラッシュ・メモリーをディスクに使うソリッド・ステート・ドライブ(SSD)やマルチメディアカードの一種、eMMCを搭載することによって、高速に起動するのに加え、衝撃に強く、持ち運びにもより向くようになる。さらに、タッチやペン、顔認証や指紋認証などの最新機能を搭載し、直感的な操作や高いセキュリティーを実現している。
日本マイクロソフトでは、こうしたPCを「モダンPC」と表現。「機能性と美しさを備えた安心快適なPC」と定義している。同社によると、国内ではPCメーカー13社から、100機種以上のモダンPCが発売されているという。
都市部と地方との間で格差
しかし、先にも触れたように、こうした最新機能の良さが伝わっていないため、最新PCやモダンPCへの買い替えが進まないのが実態だ。しかも、地方に行けばいくほど、その傾向が強いという。
実際、内閣府の消費動向調査でも、PCの平均使用年数は、関東では6.4年と全体平均を下回っているが、北海道・東北では8.0年、九州・沖縄でも7.5年となるなど、地方での買い替えサイクルの長期化が目立つ。
量販店の販売動向を調査しているBCNのデータでも、その傾向が見てとれる。
2019年4月の販売データによると、15型のノートPCの構成比は、東京圏では34.9%と約3分の1に留まっているのに対して、東京、名古屋、大阪を除く、その他地域では67.8%と、3分の2を占める。
また、東京圏では、PCの平均単価が12万4300円であるのに対して、その他地域では11万5900円となっている。
東京圏では、モダンPCと呼ばれる製品をはじめとしたプレミアム製品の比率が高い一方で、地方では、普及価格帯の15型ノートPCが中心に売れていることがわかる。
この背景には、最新PCの機能や利便性が地方にまで浸透していないことや、地方の量販店店頭では、15型ノートPCの展示が中心となり、選択肢が少ないことなどがあげられる。
アップルのシェアが高い東京圏
そして、もうひとつ特筆できるのが、東京圏ではアップルのシェアが高い点である。
2019年1~3月の販売データによると、東京圏におけるアップルのシェアは、ノートPCでは18.7%で首位、デスクトップPCでは同じく18.7%のシェアで2位。だが、その他地域では、ノートPCでは6.9%で5位、デスクトップPCでは7.5%で4位となっている。実に、10ポイント以上もの差がついている。
デザイン性に優れたアップルが、都市部で販売を増加させている点も、普及モデルといえる15型ノートPCの構成比が都市部で低いことにつながっている。
PC業界としての課題は、地方における買い替えサイクルの短縮化と、モダンPC比率の上昇といえる。そのためには、最新PCの魅力をしっかりと伝える努力が必要だ。
(ライター 大河原克行)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。