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大手銀行飛び出しファッションへ 女性起業家の挑戦

2019/5/28

アフリカの布を使ったカバンや服を扱うRICCI EVERYDAYを創業した仲本さん

安定した就職先として長らく人気を誇っていた大手銀行。そんな大手銀でやりがいを感じて働きキャリアを積んだ後、あえて飛び出して天職をつかみ取った女性たちがいる。自ら事業に取り組むに至ったきっかけや思いはどこにあるのか。彼女らの仕事観を聞いた。

■「組織より自分を軸に」

「自分のやりたいことを思い出すきっかけがファッションだった」。蛍光イエローや赤などの鮮やかな色に、大ぶりの幾何学模様のような柄が並ぶアフリカンプリント。この布を使ったカバンや服を製造するのが、RICCI EVERYDAY(リッチー・エブリデイ、静岡市)だ。創業者の仲本千津さん(34)は、起業の道のりを振り返る。

一橋大学大学院でアフリカの紛争問題を研究した後、2009年に旧三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。東京・丸の内の支社で法人営業を担当した。企業財務について学び、中小企業経営者の相談を聞くなど仕事にやりがいを感じていた。

ところが一生懸命働くにつれ「組織を優先して考えるようになり、自分の気持ちが見えなくなっていった」。このままで良いのか迷っていたとき、東日本大震災が発生。「人生は一度しかない」と転職を決意した。就職した非政府組織(NGO)でウガンダに駐在中、アフリカンプリントに出合って一目ぼれ。「すてきな商品ができる」と事業化を思いついた。

同社が扱う布は派手なデザインが多い。店頭で1時間以上悩んで購入する客もいるという。仲本さんは「服装や食事といった日々の小さな選択や決断が、自分の軸や本当にやりたいことを見つける一歩につながる」と考える。5月に初の直営店を東京・代官山に開き、国内展開を進める。銀行時代に多くの経営者と接した経験が、事業を軌道に乗せる過程で生きているという。

■「沸々わいた思いを形に」

仲本さんが起業家の先輩として尊敬するのが、ファーメンステーション(東京・墨田)代表の酒井里奈さんだ。同社は発酵技術を使って国内産の無農薬米から高純度のエタノールを作り、化粧品の原料や最終製品に仕上げている。従来は製造過程で処分していた「発酵残さ」も飼料に活用。地域資源を余すこと無く使うことで「究極の循環型社会を目指す」と話す。

酒井さんは1995年、旧富士銀行(現・みずほ銀行)に総合職として入行。支店勤務や出向を経て、プロジェクトファイナンス(事業向け融資)の部署に異動した。当時、メディアなどで社会的責任投資(SRI)という言葉が登場し始めたばかり。テレビで見て興味を持った酒井さんは代替燃料分野で案件を探したが、融資実行には至らなかった。

酒井さんは国産の無農薬米から化粧品をつくるファーメンステーションを設立した

その時に沸々とわき上がった「循環社会の時代は必ずやってくるという“思い”が忘れられなかった」。外資系金融機関などで勤務し事業化の道を模索した後、自ら起業する道を選ぶ。技術の要となる発酵の仕組みも学ぼうと東京農業大学に入り直した。

「入学当初は働いていないことに罪悪感を覚えた」ものの徐々に研究にのめり込み、09年にファーメンステーション設立に至った。19年にはJR東日本と組み、青森のリンゴの搾りかすを使った化粧品も発売。商品群を広げている。

かつて大手銀行は新卒学生の就職先として人気を誇っていた。ただ、20年卒の文系総合ランキングによると、三菱UFJ銀行が16位(前年11位)、三井住友銀行が23位(同19位)、みずほフィナンシャルグループが47位(同26位)と順位を落としている。お茶の水女子大学の永瀬伸子教授は「高度経済成長期には人材の同質性が組織の強みだったが、グローバル化や女性の社会進出が広がる今、弱みに転じている」と指摘する。

永瀬教授も大手銀を飛び出した経験を持つ。上智大学を卒業後、1982年に日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)に専門職の2期生として入行し4年間務めた。結婚後に退職、経済学を学ぶため東京大学の大学院に進んだ。当時は男女雇用機会均等法の制定前で、「同じ大学を卒業して採用されても、女性が男性と同様のキャリアを築くには大きなギャップがあった」。

労働力人口が減るなか、就職先としての魅力を高めることは優秀な人材の獲得とつなぎ留めにつながる。金融機関が起業などで離職した人材とのつながりを保てれば、投融資など今後のビジネスチャンスにも結びつく。様々な分野に関心や問題意識を持ち、新しいビジネスを生み出す意欲のある人材が活躍できる場を設けることが、男女を問わず重要になっている。

■年功序列崩し登用を ~取材を終えて~

IT(情報技術)ベンチャーなどの異業種が相次ぎ金融業に参入するなか、大手銀に求められる業務内容も多様化している。定型的な業務を自動化する「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入などを受けて多くの金融機関は新卒採用を減らしている。一方で、新しい技術や産業に高い感度を持つ内部人材の離職はなるべく避けたいはずだ。

業界で長く続いた雇用慣行を見直す動きも出てきた。三井住友銀行は2020年1月をめどに、最短で入行8年目(30歳)で管理職に登用する人事制度を導入する。年功序列を崩し、実力のある若手の活躍を促す狙いだ。若手が不満をためる原因の1つだった支店ノルマを廃止する流れも3メガバンクの間で出始めている。優秀な人材の育成と確保には、年齢や性別にかかわらず活躍できる環境づくりが欠かせない。(佐藤初姫)

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