中国国内のセンザンコウは、乱獲が原因で1990年代半ばには著しく減少したが、激減する前に国内で採取されたうろこと、国際取引禁止前に輸入されたうろこは、今でも合法的に利用できる。製薬企業はこれらの入手先に限定するという建前で、薬の製造を続けた。
公表されている数字では、中国が1994年から2014年までの21年間に輸入したセンザンコウのうろこは15トン近い。製薬企業の需要を満たすにはまったく足りない量だ。CBCGDFの周晋峰代表によると、省政府は企業が使っているうろこが古い在庫なのか、新しく密猟されたものなのかを確認しないという。
センザンコウが中国国内でほぼ姿を消して20年以上になるのに、今でも製薬企業の需要をまかなえるほどの量が国内に残っているのだろうか。
商業規模でセンザンコウを飼育できる技術がまだ確立していないことも問題を難しくする。保全生物学者で、米国の非営利団体「センザンコウを守る会」の創設者の一人でもあるポール・トムソンは、こう言う。「飼育で需要を満たすことは不可能です」
飼育は困難
実際、センザンコウの飼育はハードルがとても高い。アリとシロアリしか食べないうえに、ストレスで胃潰瘍や肺炎になりやすく、細心の注意が必要なのだ。こうした理由で、飼育下では、繁殖や出産はおろか、200日以上生きられるセンザンコウもほとんどいないのが現実だ。
それでも中国人は飼育を諦めない。2013年、ある中国人女性がウガンダの首都カンパラで「オルセン・イースト・アフリカ・インターナショナル・インベストメント」という会社を設立し、センザンコウの飼育ビジネスに着手した。その後まもなく「アジア=アフリカ・センザンコウ飼育研究センター」という会社もカンパラで登録され、飼育の免許を取得している。
両社にはそれぞれ2016年と2017年にウガンダ当局の強制捜査が入った。飼育施設が野生のセンザンコウを違法取引する隠れみのになっている疑いが濃厚になったためだ。
西洋医学の研究でも、センザンコウのうろこの効能は確認されていない。うろこの成分は爪や髪、サイの角と同じケラチンで、人体の生理機能には何ら作用しない。それでも中国の伝統医学書では、体の不調に効果があるとされている。
伝統医学に頼る人は世界にたくさんおり、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類に中国伝統医学が正式に採用されたことで、その数はますます増えると予想される。それだけに、うろこの代用品の存在を医療関係者や患者に知らせることが、センザンコウの絶滅を防ぐうえで重要だろう。
(文 レイチェル・ベイル、写真 ブレント・スタートン、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック日本版 2019年6月号の記事を再構成]