伝統薬の材料として利用されているセンザンコウ。違法取引が最も多い哺乳類で、このままでは絶滅が懸念されている。ナショナル ジオグラフィック2019年6月号では、センザンコウの保護と、今も取引が止まない背景をレポートしている。
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センザンコウは、アフリカに4種、アジアに4種、合わせて世界に8種生息する。全身がウロコで覆われ、長い尾を伸ばしてバランスをとり、後ろ脚で歩く姿は、恐竜のようにも見える。
センザンコウは系統的にはクマやイヌに近く、分類上は独立した目を形成している。地球上で唯一無二の生き物だから、絶滅したら取り返しがつかない。しかし、どれも違法取引で絶滅の危機にさらされているのだ。
取材したアフリカ南東部、ジンバブエの飼育保護センターにいる「タムダ」と名付けられた子供のセンザンコウはまだ幼かった。
飼育員は土の山をつるはしで崩し、タムダに声をかけた。ほら、アリだよ。タムダは長いかぎ爪をつるはし代わりにして土を掘り、体長と同じぐらいありそうな長い舌を割れ目に差し込んで、アリを食べ始めた。
タムダと母親がこの保護センターにやって来たのは2017年初めだ。ジンバブエの国境警備隊が、モザンビークから不法に越境しようとした人物を拘束したところ、所持していた袋に入っていたのだ。
センザンコウの子は高いところを好む。生後数カ月は母親におんぶされたまま、生きていくための行動を学ぶからだ。タムダもおそらくそうやって過ごしていたとき、密猟者に母親ごと捕獲されたのだろう。母親は危険が迫ると、柔らかい毛の生えた腹部に子を隠して体を丸め、硬いうろこで身を守る。こうなるとライオンでも手を出せないが、人間に狙われるとなすすべがなく、素手で簡単に拾い上げられてしまう。
伝統薬の製造に使われるうろこ
センザンコウの取引に関わっているのは、少なくとも6大陸の67の国と地域だ。野生生物の取引を監視している団体「トラフィック」の分析によると、その中でも、うろこの出荷量が多いのはカメルーン、ナイジェリア、シエラレオネ、ウガンダだという。その大部分が中国へ送られる。
2000年から2013年に密猟されたセンザンコウはおよそ100万匹にのぼる。密猟者の主な目当ては、伝統薬の材料となるうろこだ。
うろこは乾燥させ、粉末にして錠剤にすることが多い。中国伝統医学では、母乳の出を良くするほか、関節炎やリウマチの症状緩和などに幅広く使われている。ベトナム、タイ、ラオス、ミャンマーでも、伝統薬の市場に行けばセンザンコウのうろこが売られている。