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惰性で大酒続けた人を襲う「重症型アルコール性肝炎」

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

2018年11月、コラムニストで兵庫県知事選挙にも立候補した勝谷誠彦さんが亡くなった。勝谷さんの命を奪ったのは「重症型アルコール性肝炎」。このニュースを聞いて、アルコールの過剰摂取が体に与える害について認識を新たにした方は少なくないだろう。酒ジャーナリストの葉石かおりが、肝臓専門医で『酒好き医師が教える 最高の飲み方』の監修者である浅部伸一さんに、重症型アルコール性肝炎の怖さと予兆や対策を聞いた。

◇  ◇  ◇

「病気が怖くて、酒を飲んでいられるか!」

酔っぱらって、こんなふうに虚勢を張る左党がたまにいる。しかしその多くは、しらふになると、「実は肝臓の数値あんまり良くないんだよね…」とポツリと不安を漏らす。そう、どんな豪傑な左党だって、病気はおっかないのだ。中でも左党が最も恐れているのは、アルコールが原因となる重篤な肝臓の病気である。

かくいう筆者だって肝臓の病気は怖くてたまらない。酒ジャーナリストという仕事柄、私の周囲にもアルコールが原因で肝臓を壊し、若くして他界された方もいる。2018年11月には、コラムニストの勝谷誠彦さんが重症型アルコール性肝炎によって、57歳という若さで亡くなった。ご存じの方も多いと思うが、勝谷さんの酒好きは知られており、日本酒関連の本を何冊も出されている。

生前、雑誌の対談や日本酒の会などで顔を合わせることも多く、その豪快な飲みっぷりはよく存じあげていた。報道によると、夏に入院した後、一度退院したものの、その1カ月ちょっと後に帰らぬ人に…。あまりに急過ぎる展開に、恐怖を感じる人も多かったように思う。特にドクターから肝臓の数値や、酒量について注意されている方はより強く自分の身を案じたのではないだろうか。

ではこの重症型アルコール性肝炎とはどういうものなのだろうか。「アルコール性」で「重症」なのだから、過度な飲み過ぎが原因で起こる肝臓の病気だということは推測できるものの、どんな症状なのか、事前に予兆を察知することはできないのか、そして急性肝不全とどう違うのか、など分からないことが多い。そこで今回は、肝臓専門医の浅部さんに話を伺った。

重症型アルコール性肝炎、急性肝不全、劇症肝炎、何が違う?

重症型アルコール性肝炎について詳しく話を聞く前に、まずは、肝機能が急激に低下する病気について整理しておきたい。急性肝不全、劇症肝炎といった病名も耳にするが、これは重症型アルコール性肝炎と何が違うのだろうか。

浅部さんは、「急性肝不全は、正常だった肝臓が、短期間で機能が低下する病態(肝不全)を指します。劇症肝炎はその中で、発症から8週間以内に何らかの原因によって急性の炎症が肝臓に起こり、肝機能が著しく落ちてしまう病態です。急性の中でもより重症のものと考えてください」と説明する。

「劇症肝炎の症状で一番典型的なものは、ウイルス性の肝炎で、最も多いのがB型肝炎です。成人後、B型肝炎にかかった場合、急性肝炎になりますが、多くは自然に治ります。しかしごくまれに治らず、死に至る方もいます。実際、私が担当していた患者の中に、B型肝炎が劇症化し、他界された方もいました。劇症肝炎は、ウイルス性のほか、薬剤によるものも多く、まれに自己免疫によるものもあります」(浅部さん)

確かに、肝臓の病気といっても原因はアルコールばかりではないわけだ。では、勝谷さんの命を奪った重症型アルコール性肝炎とは?

「重症型アルコール性肝炎は、名前からも分かるように、アルコールが主因によって起こる肝不全です。慢性的なアルコールの摂取によって、アルコール性肝障害がある人が陥りやすい病気です。慢性飲酒により肝臓にかなりダメージを受けている人が、より重症化したものです。肝臓の細胞が死んだり働かなくなって、急激に肝機能が悪化、それによりさまざまな病気を合併します。病状が重い場合は、発症1カ月以内に死亡することも多い恐ろしい病気です」(浅部さん)

なるほど、すでに飲み過ぎでアルコール性肝障害がある人が、一気に悪化して陥る病気なのだ。浅部さんによると、重症型アルコール性肝炎になった人は、健診などの肝機能の数値が悪化しており、医師などから注意を受けている人がほとんどだという。

「大量に飲酒を続けている人が、何らかの拍子に急激に肝臓の機能が著しく悪くなるわけですが、全ての人がなるわけではありません。なぜなる人とならない人がいるかは明確に分かっていません。もちろんより多く飲むとリスクが高くなるわけですが、個人差もあります。肝臓の機能はかなり予備力があるため、機能がジワジワと落ちている段階ではほとんど症状が出ません。しかし、肝臓の線維化(硬化)がかなり進み、その予備力を使い尽くし耐えられなくなると、"ガクン"と急激に悪化します。これが重症型アルコール性肝炎で多いパターンですが、中にはさほど肝臓の線維化は進んでいないのに、大量飲酒により炎症が生じて急激に悪くなるケースもあります」(浅部さん)

浅部さんは、倦怠感や食欲不振などがあり、肝機能が落ちている状態のときに過剰飲酒することが重症型アルコール性肝炎につながる危険性を指摘する。

「肝機能が落ちている状態のときは当然アルコールの分解能力も落ちます。こうした状態のときは、いつもと同じ量のアルコールを飲んでも、通常より多い量のお酒を飲んでいるのと同じ状態となり、肝臓のダメージも大きくなります。これが悪循環となり、肝障害の重症化を招く可能性があると考えられます」(浅部さん)

浅部さんによると、一般のアルコール性肝障害の場合は、お酒をやめれば良くなるケースがほとんどなのに対し、重症型の場合は、お酒をやめても回復しないことがあり、死に至ってしまうケースもあるのだという。

こ、怖い…。酒飲みの中には、調子が悪くても、酒を飲めばスッキリするなどと言う人もいるが、こうした行動の積み重ねが重症型アルコール性肝炎につながっている可能性があるわけだ。

黄疸、腹水、肝性脳症、急性腎不全などが起こる

次に、重症型アルコール性肝炎になると、どういった症状が起こるのだろうか。

「重症型アルコール性肝炎に罹患し、肝臓の機能が低下するとさまざまな症状が起こります。中でも目に見えて分かるのは黄疸(おうだん)です」と浅部さん。

確かに、勝谷さんについて報じたネットのニュースなどを見ていても、黄疸が見られたという話が載っていた。黄疸というと、肌や目が黄色くなるというのは知っているが…、恥ずかしながらよく分かっていない。具体的にはどういうものなのだろうか。

「黄疸は肝臓の機能が低下すると現れる典型的な症状です。血液中には、老廃物であるビリルビンという成分が含まれており、これが茶色い(黄色い)色をしています。健常者の場合、肝臓が血液中のビリルビンを取り込み、胆汁という形で腸の中に排せつします。ところが、肝不全になるとビリルビンの代謝・排せつがうまく行えず、血液中のビリルビンが上昇し、目や顔の肌の色が黄色くなります。また、おしっこの色も濃い黄色(紅茶のような濃い色)になります。これが黄疸です」(浅部さん)

もう1つ、目で分かりやすい症状が腹水だという。腹水(腸の外側にたまる水)でおなかがパンパンになって動けなくなって救急車で運ばれるというのが典型例なのだという。

さらに、意識障害や異常行動を引き起こす肝性脳症、肺炎などの感染症、急性腎不全などが起こると浅部さんは話す。また、血液中の凝固因子が減るため、内臓や脳で出血するリスクも高くなる。肝臓機能が低下している人は消化管などに静脈瘤ができやすく、これが破裂すると大出血を起こすのだという。

こうしたさまざまな症状を引き起こすのは、過剰なアルコールにより肝臓に負担がかかり、肝細胞が減っていき、解毒、代謝、胆汁の生成・分泌という肝臓の持つ働きが失われることにより起こる。これはアルコールを分解する際に生じる憎っくきアセトアルデヒドの毒性によるものなのだろうか。

「現時点では明確に分かっていません。ご指摘のようにアルデヒドもその原因の1つと考えられますが、それだけではありません。肝臓内のCYP2E1などの代謝酵素によりアルコールが分解される際に生成される酸化力が強い代謝物が炎症を起こすのではないかという指摘もあります」(浅部さん)

重症型アルコール性肝炎の治療法は?

先生、もしこの重症型アルコール性肝炎に罹患した場合、効果的な治療はあるんでしょうか?

「残念ながら、症状が重い場合、効果的な治療法はありません。肝不全に対して一般的には血漿(けっしょう)交換という処置を行いますが、劇的な効果はなく、その効果は1日程度しか持ちません。血漿というのは血液中の液体成分のことです。健康な方から血漿成分をもらい交換することで、血液中の炎症成分や老廃物を取り除こうというものです。また、肝不全になると血液中の凝固因子が減り、出血すると血液が固まりにくく、それが命取りになることもあります。それを防ぐために血漿成分をもらうわけです」(浅部さん)

また、炎症を抑えるためにステロイドを投与するという方法もあるものの、ステロイドは免疫機能を抑えるため、肺炎などをはじめとした感染症のリスクが高まるため、賛否両論があるのだという。

さらに、肝不全に対して最も有効な治療法は肝移植だが、一定期間の禁酒を条件にするのが普通で、日本で重症アルコール性肝障害のケースで肝移植が行われることは少ないのが現状だとのこと。

なお、浅部さんによると、どこからが「重症型アルコール性肝炎」に該当するかは必ずしも明確になっているわけではないのだという。「実際には、重症型まではいかないけれど、その間際という患者も多くいます。黄疸が出て腹水もたまって救急車で運ばれてきた人でも、点滴をして全身管理をして、お酒を絶っていただくと、回復される方も多くいます」と浅部さんは話す。

この話を聞いて少し安心した。「黄疸」が出たらもう後がないのかと思っていたが、必ずしもそうではないのだ。

重症型アルコール性肝炎にならないためには

ここまでの説明で、重症型アルコール性肝炎の怖さはよく分かった。では、重症型アルコール性肝炎にならないためには何をすべきか、そして重症化する前に、危険を察知する方法はないのだろうか。

まずは対策から。重症型アルコール性肝炎はもちろんだが、その前段階のアルコール性肝炎にならないためには、具体的にどういうところに注意すればいいのだろう? 先生、やっぱり酒量を控えることが先決なのでしょうか?

「はい、何と言っても酒量を抑えることが第一です。アルコール性肝障害のリスクが高くなると言われる1日当たりの酒量は、純アルコールに換算して60グラム。日本酒で言うなら3合です。このくらいの量を日々飲んでいる人は少なくないでしょう。これを適量と言われるアルコール20グラム、日本酒1合に抑えるように心がけてください。個人差はありますが、特に肝機能異常を指摘された場合は飲酒量を抑えるのが原則です」(浅部さん)

そして浅部さんは、「前述したように、倦怠感や食欲不振などがあり、調子が悪いときはアルコールを飲まないことが大事です」と話す。肝機能が落ちているときにアルコールを飲むと、いつもの量であっても肝臓のダメージがさらに大きくなる。負のスパイラルに陥らないためにも、「惰性で飲まない」ことが大切だ。

浅部さんがこれまで診てきた重症型アルコール性肝炎に罹患した人は、1日に純アルコールで100~200グラムを超えるような酒量の人はざらだったという。これは相当な酒量だ。「アルコール依存症、もしくはそれに相当する方です。過剰飲酒を続けることは依存症になるのはもちろん、肝臓に致命的なダメージを与えるということを認識してください」(浅部さん)

なお、女性も注意していただきたいと浅部さんは警告する。「女性は、男性よりも肝臓が小さく、肝臓の処理能力が低い傾向があります。女性のほうが少量、短期間での飲酒で重症化しやすいのです」(浅部さん)

ALTが高い人、アルコール性脂肪肝の人は酒量を減らそう

最後に、重症化する前に危険を察知する方法について浅部さんに聞いた。素人レベルでも分かる健診結果の数値、あるいはカラダに出る症状などから、事前に察知することはできないだろうか。

「ポイントの1つは黄疸をいかに早く発見するかです。私が実際に患者に聞くのは、尿の色です。紅茶のような濃い色になっていると、黄疸が出ている(ビリルビンの数値が上がっている)可能性があります。また、ビリルビンの数値は、その人の肝機能がどのくらい維持されているかの目安になります。正常なビリルビン値はおおむね1mg/dL未満です。酒量が多いなど、何らかの心当たりがある人が、2mg/dLを超えたら注意が必要です。そもそも、ビリルビンの上昇を心配するような段階では禁酒が必要なのですが」と浅部さん。

ただし、このビリルビン値は、人間ドックの検査項目にはたいてい含まれているが、一般的な健康診断の結果には含まれていない。

職場で受ける健診結果の肝機能のデータなどから察知することはできないだろうか。

浅部さんは、「残念ながら、年に1回受ける健診のALTやγ-GTPなどの数値から察知することは難しい」と話す。

ただし、ALTなどの数値には注意を払ってほしいと浅部さんは話す。「ALTやγ-GTPは肝臓の状態(壊れ方)の指標となる数値です。お酒を飲んでいる人が上がってきたら、それは明らかに病気がジワジワと進んでいることを示しています。酒量を減らす必要があります。肝臓専門医としてはALTが基準値の30U/Lを超えた時点で注意してほしいですね」(浅部さん)

実際、浅部さんは、これが当てはまる人に対して、アルコールが原因かどうかを明確にするため、試験的にアルコールの量を減らす、または断酒することを勧めているという。「その結果、数値が改善したら間違いなくアルコールが原因なので、以後、飲酒量を控えればアルコール性肝炎、さらには重症化するリスクが軽減します」(浅部さん)

また、「アルコール性の脂肪肝がある場合は、過剰飲酒になっている可能性が高いわけですから当然、注意が必要です。酒量を減らすことをお勧めします」(浅部さん)。下の図にあるように、脂肪肝は大きく、「アルコール性」と「非アルコール性」に分けられ、1日のアルコール摂取量が60グラム以上の場合は「アルコール性」と判断される。

◇  ◇  ◇

今回の取材で、冷静に話す浅部さんの話を聞いているうちに、「もしかしたら自分も重篤な肝臓病に罹患する可能性があるのではないか?」と怖くなった。もちろん過剰飲酒が最大の原因であるとはいえ、なる人とならない人がいて、その理由が明確に分かっていないというのも恐怖をあおる。

酒量を抑えるのはもちろんだが、特に痛感したのが「惰性で飲まない」ことの大切さ。調子が悪く、肝機能が悪い状態で飲めば、肝臓のダメージは大きくなる。「二日酔いは飲んだら治る」なんてとんでもない。惰性飲みによって、重症型アルコール性肝炎に陥る「魔のスパイラル」に入らないように注意が必要だ。また、定期的な健診などでALTなどの数値をチェックし、基準値を超えるようなら酒を控える。当たり前のことを着実に実行したい。

(エッセイスト・酒ジャーナリスト 葉石かおり)

浅部伸一さん
自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授。1990年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、虎の門病院、国立がん研究センター、自治医科大学などを経て、米サンディエゴのスクリプス研究所に肝炎免疫研究のため留学。帰国後、2010年より自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科に勤務。現在はアッヴィ合同会社所属。専門は肝臓病学、ウイルス学。好きな飲料は、ワイン、日本酒、ビール。

[日経Gooday2019年5月7日付記事を再構成]

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