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ヒットの原点

人気「お受験服」誕生秘話 工場主が切った最終カード ファッションしらいし 白石正裕社長(上)

2019/5/28

――どのタイミングで流れが変わったのでしょう?

「ブレークスルーのタイミングは2005年12月。僕はここで断られたら、もう営業には行けないというくらい精神的に追い込まれていました。ダメ出しをされながらも、2カ月に一度はしつこくサンプルを作って持って行っていましたから、伊勢丹のバイヤーさんにも良くは思われていなかった。

『もうこれで最後だな』という日、ふだんはネクタイなど締めたことがないのに、その日ばかりはネクタイをして行きました。この日もやはり服の性能はいいと褒められたのですが、買ってはもらえませんでした。最後の最後に『だったら、あなたたちが作って欲しい服を作ります』と言ったんです。本当は最初からそう言いたかったんですけれども、ずっと我慢していた。すると、『本当? そんなことをしてくれるのならうれしい』という話になり、その際に依頼されたのがお受験服でした」

――作る際にあたって、求められた条件は?

「半袖のワンピースとショールカラーのジャケット、これをセットで。それを、ウールのジョーゼットで作ってほしいといわれました。子供を受験させるお母さんたちが面接に着ていく服ですから、立って美しく、座って美しく。自主企画に挑戦して以来、うちはずっとそういう服作りばかりをしてきましたから得意です。4月に店頭に出す条件だったんですけれども、量産用の素材の調達が間に合わず、5月の店頭出しになった。カタログにも載らなかったんですけれど、蓋を開けたらうちの商品がよく売れたんです」

百貨店に何度もサンプルを持ち込んでは買ってもらえない日々が続いた

「試着購入率が高かったらしいです。例えば、お目当ての服を買いに来た人が試着してしっくり来ないとしますでしょう。売り場の販売員さんが『こちらもちょっとお試しで着てみますか?』と勧めると、それを気に入って買っていってしまう。最初はバイヤーさんも売り場の店員さんも『どうしてだろう?』と不思議がっていたそうです」

「もちろん、僕らには理由はわかっていました。要するに着心地がいい。縫う前にアイロンで生地を立体的に仕上げる『クセ取り』や『ダーツ処理』など、アパレルとの取引では省かれてしまう服作りの工程を省かず、手間をかけていました。すると服が立体的になり、着心地が良くなる。わかりやすく言えば、平らな生地を合わせた中に体を入れるのと、丸く立体的にしておいた中に体を入れるのの違いです。この違いは着てみて初めてわかる。見た目で言うと、細く見えるのに動きやすい工夫が施してある」

「こういう技術はある一定の年齢以上の職人さんたちなら、みんな知っていることですし、やればできることです。ただし、価格を低く抑えられた委託加工では省かざるを得ない。わかっていても、できなかったんです。結果的に技術のわかる職人さんも減ってしまいました」

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