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映画「長いお別れ」 認知症で「家族の関係壊れない」 原作者の中島京子さん

2019/5/27

父親と過ごした記録を小説で残したという中島さん

少しずつ記憶を失っていく認知症の父と、その家族との日々を温かくユーモラスに描いた映画「長いお別れ」が31日から公開される。人生100年時代が近づく中、認知症は今や特別なものではなく、誰もが向き合う病だ。実父の介護体験をもとに原作小説を執筆した作家の中島京子さんは「介護をする中で、興味深く面白い発見がたくさんあった。父と過ごした記録を小説で残したという感じです」と話す。

■実体験でのエピソード織り交ぜ

「自分や家族をモデルにする小説は書きにくいだけでなく、あまり書く気もなかった」という中島さんが、考えを改めたのは2004年にアルツハイマー型認知症と診断された父の存在があった。「ざっくりとした言い方になりますが、こんなにおかしな病気なのかと。認知症についてはこれまでも小説や映画になっていますが、父を介護した体験があまりにも興味深かったので、小説として書いてみたいとメモを取り始めました」

短編小説の連作という形式で執筆した原作小説は創作をベースとしながらも、実体験での父とのエピソードをちりばめた。行方が分からなくなった父の居場所を確認しようと、行ったり来たりする全地球測位システム(GPS)の動きを家族でじっと見つめる様子や、海外在住の姉を訪ねて旅行した際、日本にいると思い込んでいる父のちぐはぐな言動も盛り込んだ。「父は実際にしょっちゅう入れ歯をなくし、よその家から入れ歯が出てきたこともありました」と中島さんは振りかえる。

父の介護は約10年にわたった。「私の名前は早い段階で忘れてしまい『あんたは誰の娘だったっけ?』と聞かれてびっくり。そんなころでも漢字テストをしてみると驚くほど優秀なんですよ。例えば『ねずみ』の漢字。私たちでも、どんな字だったかちょっと記憶があやふやですよね。でも父は書けたんです。姉と2人で『鼠(ねずみ)という漢字が書けているよ』と驚きました。娘の名前は忘れても漢字は書ける。とても不思議で、『お父さんの頭の中、どうなっちゃっているんだろう?』と。小説でそれを書いてみたいと思ったんです」

■すごい俳優さんと実感

映画の撮影現場を一度訪ねた。認知症が進んだ父(山崎努)と、仕事も恋愛も行き詰まって落ち込む次女(蒼井優)が縁側で語り合うシーン。2人の会話はまったくかみ合わないが、心は通じ合っていると感じさせる重要な場面だ。「自分の体験でも(認知症を患っていても)感情は伝わるという実感があった。落ち込んでいる時は、なんとなく慰めようとしてくれたりして。そういう関係は壊れない、ということを感じました。症状の現れ方は千差万別で一概には言えないが、病気になって少しずつ変わっていくものの、本質的に別人になったという感覚はなかったです。人生の最後のステージでそういう病気になったけど、家族の関係性は変わらない。そういうこともあるのではないかと私自身は思っています」

撮影現場では俳優たちの演技を目の当たりにし「鳥肌が立った」と明かす

撮影現場で目の当たりにした俳優たちの演技には「鳥肌が立った」という。「父を演じた山崎努さんは、せりふはほとんどなく、歩いている後ろ姿で(人物像を)語り、顔の筋肉一つを動かすことで演技をされていた。皆さん名優ぞろいですが、そこにはまさに家族がいたんです。すごい俳優さんたちだなぁと改めて実感しました」

中島さんは03年に小説家としてデビューした。父親はデビュー作は読んでくれたが、2作目はもう読めない状態だったという。

「長いお別れ」は中島さんにとって「ちょっと特別な位置にある」という作品だ。映画化すると聞いて姉は読み直してくれた。「『懐かしいことがいっぱい書いてあった。書いておかないと記憶も薄れてしまうので、書いておいてくれてよかったわ』と言われ、ちょっとホッとしました」と笑顔をみせた。

映画「長いお別れ」は31日から全国公開。中野量太監督。出演は蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山崎努ほか。

なかじま・きょうこ 1964年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務などを経て、田山花袋「蒲団」を下敷きにした書き下ろし小説「FUTON」(03年)でデビュー。直木賞「小さいおうち」(10年)など受賞多数。今月「夢見る帝国図書館」(文藝春秋)を刊行。

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