後任のいない職場での妊娠 いつ、どう報告する?
後任者がいない職場だけど、いずれは妊娠・出産したい。もし妊娠したらいつ誰に、どのように報告したらいいのか。産休を取る前にやっておくべきことは何か。かなえ社会保険労務士事務所代表の漆原香奈恵さんが解説します。
[回答者:漆原香奈恵さん(かなえ社会保険労務士事務所代表)]
妊娠したら、職場にいつ報告するのがベストなのか多くの女性が悩んでいます。妊娠は喜ばしいことですから、本来は悩まずに報告できる社会・職場であってほしいのですが、そこまでの環境・体制づくりが進んでいないのも現状です。今のうちから頭の整理をして、いざというときに戸惑うことがないように心の準備をしましょう。
職場への妊娠報告、遅くとも16週ごろまでに
妊娠報告は、病院で妊娠が確認されてすぐにする人が意外にも多く、妊娠8週までという割合が高いようです。妊娠16週で安定期に入るころまでには、大部分の人が妊娠の報告を済ませています。
個人差はありますが、つわりは妊娠4、5週ごろから始まり、8週から10週にかけてピークになるので、つわりが最もつらい時期に入る前には報告しようと考える人が多いようです。また、妊娠初期は流産などのリスクを考え、安定期に入ってからすぐに報告しようと決める人も少なからずいます。
大切な妊娠初期に少しでも安心して過ごすためにも、できるだけ早めに伝えるに越したことはありません。余裕を持った業務の引き継ぎに必要な期間を考えると、遅くとも16週ごろまでには報告しましょう。
妊娠の報告義務、就業規則に記載されていることも
法律では会社への妊娠報告義務までは規定されていませんが、会社の就業規則に妊娠報告を促すための規定があることは考えられます。しかし、報告を怠ったことを理由とする不利益処分は、男女雇用機会均等法の第9条により無効になる可能性が高いです。
育児休業の申し出期限については育児・介護休業法に定めがあり、会社の就業規則にも規定されているでしょう。希望どおりの日から休業するためには、原則として育児休業を開始しようとする日の1カ月前までに申し出ることが必要です。
ただし、実際には社会保険料免除や育児休業給付金などの手続きの準備もありますので、職場を困らせることのないよう早めに伝えましょう。
妊娠期を安心して過ごすためにやっておくべきこと
妊娠中は、つわりなど体調不良によって、職場に迷惑を掛けてしまうことも想定されます。上司と、仕事で密に関わる人に早めに報告しておくことで、安心して仕事を続けられます。もし報告していないと、多少つらくても我慢してしまい、母体や赤ちゃんに負担が掛かってしまうかもしれません。
また、早めに報告しておけば、産休(産前・産後休業)に入る前までに余裕を持って代替要員の確保や業務の引き継ぎを進められるので、産休・育児休業にも安心して入れますし、職場復帰がしやすい信頼関係を築けるでしょう。
つわりがひどくて遅刻や早退、欠勤する場合にフォローしたり、休業期間中に職場を支えてくれたりする上司や同僚にできる限り負担を掛けないよう配慮することも、仕事を続けていく上で重要なことです。早めに伝えることで妊娠期を安心して過ごすことができます。
言いづらい上司に、メールだけで伝えても大丈夫?
最初に妊娠報告するのは直属の上司です。仕事で密に接する人にも早めに伝えたほうが、体に負担が掛かりそうなときにサポートしてもらえるかもしれません。同僚や他の職場の人たちには安定期に入ってからでよいでしょう。
直属の上司に報告するときは、直接会って伝えましょう。なかなか職場で会えない場合や、言いづらい上司で面と向かって話を切り出せない場合には、メールを事前に送ることでスムーズに話が進むことがあります。メールの場合は次のポイントを入れるのがおすすめです。
(2)妊娠・出産しても仕事は続けていきたいと考えていること。
(3)直接報告するための時間を頂けないかお願いする。
メールはあくまでも、落ち着いて相談するためのきっかけをつくる手段です。今後の仕事や勤務、引き継ぎなど具体的なことについては直接会って相談しましょう。
業務効率化も検討し、職場の信頼関係を築いて
妊娠・子育てしながら仕事を続けるためには、さまざまな場面で周囲の人に協力してもらうことになると予想されます。お互いに気持ちのいい人間関係を築くためにできることを考えてみましょう。
今回のご相談では、同じ部署に後任者がいないため、別部署からの異動か中途採用で対応することになる可能性が高いとのこと。代替要員の確保が必要になりますので、積極的に業務の棚卸しをして、仕事の「見える化」をすることで的確な人員配置をすることができます。廃止できる業務を検討したり、計画的に引き継ぎを進めたりすることによって業務の効率化にもつながります。
せっかくの喜ばしい妊娠ですから、これを機会に業務を見直し、職場での信頼関係を築けるよう工夫してみましょう。
(文 漆原香奈恵)
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント。かなえ社会保険労務士事務所代表、合同会社かなえ労働法務代表社員。時代に合ったバランス良い人事・労務サービスの提供、障害年金の業務にも注力。二児の母。自らのライフワークとして2011年から「ママ士業の会(法律会計系専門家であり、母親でもある方のコミュニティー)」を主催、女性の育児と仕事の両立を応援。著書に『障害年金の手続きから社会復帰まで』(秀和システム)。執筆・講演・雑誌等でも活動中。
[日経doors2019年3月29日付の掲載記事を基に再構成]
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