漁師を手伝うイルカ イルカ同士も強い仲間意識
ブラジル南部のラグナには、漁師と協力して漁をするハンドウイルカがいる。
まずハンドウイルカがボラの群れを海岸に追い込む。漁師たちは、網を持って一列に並び、腰まで水に浸かって待ち構えている。漁師は水が濁っていて魚が見えないため、イルカの動きを注視する。
イルカが頭か尾を水面に打ち付けると、漁師たちはそれを合図に網を投げるのだ。イルカのほうは、投網から逃げようと群れから外れた魚を捕まえられる。
このウィン・ウインとも言える互恵関係は、科学者たちの間では1980年代から知られていた。約60頭いるイルカのうち、漁師に協力するのは数頭だ。漁の助っ人になるイルカは、他の助っ人イルカと一緒に過ごす傾向があることもわかっていた。
ブラジル、サンタカタリーナ連邦大学の生物学者マウリシオ・カントール氏と同僚たちは、その理由を知りたいと思った。
「みんなで同じレストランに行くのは、そこの料理が好きだからでしょうか? それとも、料理だけでなく、一緒に行く仲間が好きだからでしょうか?」
2019年4月10日付けで学術誌「Biology Letters」に発表されたカントール氏らの論文は、後者を示唆している。漁師に協力するイルカたちの間には、強い社会的な結びつきがあるという。
「漁師に協力しているとき以外にも、イルカたちは一緒にいるのが好きです」と、カントール氏は話す。
こうした行動を「一種の文化現象」と考える学者もいる。イルカの専門家ジャネット・マン氏は、オーストラリアのシャーク湾に暮らすハンドウイルカを研究している。
そこには、口吻(こうふん)を守るために海綿をくわえて海底で餌を探すイルカがいる。研究したところ、娘イルカは母親の行動を見てそれを学んでいることと、海綿を使うイルカ同士でグループを形成していることがわかった。つまり、イルカたちの間で、こうした行動が伝統文化になっているということだ。
助っ人イルカが行動を仲間から学習しているかどうかはまだわからない。だがカントール氏は、きっとそうではないかと予想している。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年4月15日付記事を再構成]
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