ソニー「ブラビア」 テレビ番組もネット動画も同列に
「年の差30」最新AV機器探訪
2018年末の4K・8K放送開始、2011年の地デジ化からの買い替え需要などにより好調なテレビ市場。調査会社のGfKによれば、2018年の薄型テレビの販売台数は前年比6%増の520万台、中でも4Kテレビは同40%増となった。
こうした上昇傾向の中で、次の一手を打つのがソニーのブラビアだ。早くからグーグルのテレビ用OS(基本ソフト)であるAndroid TVを搭載し、膨大なコンテンツの検索性能の向上、IoTへの対応などを進めている。4Kコンテンツも豊富なNetflixなどのネット動画をよく見る層へも訴求している。
これまでのテレビとは何が違うのか? 平成生まれのライターと昭和世代のオーディオ・ビジュアル評論家がソニーに取材した。
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小原由夫(55歳のオーディオ・ビジュアル評論家。以下、小原) 今回はソニーのブラビアの取材にやってきました。
小沼理(27歳のライター。以下、小沼) ブラビアって、テレビですよね。今回の取材もテレビを持たない者として肩身の狭い思いですね……。
小原 でも、ただのテレビではありませんよ。テレビ放送以外の機能にも力を入れているんです。今回はソニーマーケティングジャパンの福田耕平さん、織田章弘さんにお話をうかがいました。
福田耕平さん(以下、福田)、織田章弘さん(以下、織田) よろしくお願いします。
小沼 以前はレコーダーの進化を取材しましたが(記事「TVない若者も『ほしい』 レコーダーがスマホ的進化」)、テレビも進化しているわけですね。
福田 テレビは基本的に購入してから、平均で約10年使われるというデータがあります。そのため、今後のトレンドを予見しながらおすすめの機能を作っていく必要があるんです。リビングにおけるこの先々のトレンドは大きく3つあると思っています。
一つ目は、従来の放送波に加えネット動画が充実することで、お楽しみいただけるコンテンツが増えるため、お客様の幅広いコンテンツニーズに対応すること。二つ目は、それにともなうあらゆる映像ソースをきれいに見せること。三つ目はさまざまな機器がIoTに対応する中で、リビングの中心にあるテレビがどのようにかかわっていくかというポイントです。
織田 まずは一つ目のコンテンツの増加です。これに対して、ソニーでは「Android TV」に対応。リモコンのデザインも変えました。
小沼 本当だ、リモコンの上部に「Netflix」「Hulu」「U-NEXT」「YouTube」など、ネット動画サービスのボタンがありますね。
福田 ボタンを押してみてください。
小沼 おお、スムーズ! テレビをザッピングするのと同じ感覚でVODを切り替えられるわけですね。
福田 「アプリ」ボタンを押すと、それぞれのアプリが表示され、「ホーム」ボタンを押すとそれぞれのアプリが持つオススメコンテンツが一覧で表示されます。当然、何を表示するかはカスタマイズできます。ネット動画の普及により見られるコンテンツの数は爆発的に増えていますが、一方でコンテンツまでのアクセスの良さは担保しなければいけない。それをリモコンのボタンやUI(ユーザーインターフェース)上の導線によって解決しているんです。
小原 アプリの画面にテレビも同じ扱いで表示されているのか。テレビ番組もワンオブゼムで、もはや放送が主役ではないんですね。
幅広い映像ソースを最適化
織田 続いては、あらゆる映像ソースをきれいに見せるためのプロセッサーの進化です。今は一口にテレビ番組といっても2Kの地デジ放送から新4K8K衛星放送まで幅広く、さらにネット動画もテレビで見ることがあります。画質をアップコンバートする必要もある。こうした画質・種類ともに幅広い映像ソースを、どれもきれいに見られるようにすることが、これからのテレビに求められることだと考えています。
小原 こうした技術はPCよりもテレビのほうが進んでいます。PCではフレーム処理によってカクカク見える動画が、テレビだとスムーズに見られることもあるんです。PCモニターはきれいでも、品質が低いコンテンツをパネルにふさわしい解像度でアップコンバートしてくれる技術は、家電メーカーのほうが上だと思います。
織田 ソニーの高画質技術のコアはプロセッサーにあり、現在の最高峰は「X1 Ultimate」です。さまざまなソースを、プロセッサーが分析して最適な精細感や色、コントラストを出してくれます。
小沼 YouTubeなどのあまり画質が良くない画像も、自動的にある程度補正してくれるわけですか。アナログ放送だけに注力できた昔と違って、いろんなソースがある今は大変ですね。
テレビだからこそIoT対応の真価を発揮
福田 三つ目がIoTへの対応。これはAndroid TVの特色でもありますね。たとえばGoogleアシスタントに対応し、リモコンを使って音声だけでコンテンツが探せます。
織田 ちょっとやってみましょう。(リモコンをマイクのように持ちながら)「ホラー映画を探して」。
小原 おっ、似たようなサムネイルの怖そうな映画がずらっと!
小沼 どうしてもホラー映画は似ちゃいますね(笑)。でも、なんとなくジャンルで選びたい気分の時には便利そう。当然タイトルをいえばその作品を流してくれるし、リモコンでちまちま操作せずともアクセスできるのは便利ですね。これはリモコンに話しかけるんですか?
織田 機種によっては内蔵マイクをテレビ本体に搭載しているので、ハンズフリーでテレビに直接話しかけられるものもありますよ。
小沼 リモコンって部屋の中でなくしてしまうことも多いので、直接話しかけられたり、リモコンが「ここですよ」としゃべってくれたりしたら便利ですね。
小原 ものぐさだなあ……。
織田 でも、こんな機能もありますよ。「掃除を始めて」
(テレビの横に置かれていたルンバが動きだす)
小原 いつの間にルンバが!
小沼 「掃除を始めて」の一言でいいなんて、ずいぶんシンプルですね。
織田 ルンバを動かすための言葉は変えられるので、「部屋が汚いよ!」というだけで動くようにすることもできます。
小沼 意地悪なしゅうとめみたいなワードですね(笑)。
織田 これを応用すればこんなことも。「この世で一番画質のきれいなテレビは?」
ブラビア ブラビアです。ブラビア最高!!
小沼、小原 ……。
福田 ちょっと、滑ってるよ!
織田 手前味噌で失礼しました(笑)。えー、実は事前にスマホの専用アプリで「AをしたらBをする」という動作を設定することができるんですね。子どもがブラビアに「ただいま」といったら、外で働いている母親のスマホに通知を送る、なんて使い方もできるわけです。
小沼 なるほど、テレビ以外の役割も果たしてくれるのか。掃除ロボットを動かしたり、親子の連絡ツールにしたり、いろいろな機能を持たせてそれを有意義に動かせるのは、リビングに置く大型テレビだからこその利点と言えるかもしれませんね。
電車で見ていた動画の続きをリビングで
福田 2011年7月に地上アナログ放送の停波があり、そのタイミングで国内のテレビはほぼ総入れ替えになりました。それから8年。当時と大きく変わったのは「みんなスマホを持っている」ということです。コンテンツの消費デバイスとしてスマホの使用頻度が上がり、一方でコンテンツ消費のパーソナル化が進みました。でも面白い動画や映画を見て、感動や興奮を共有するときにはやっぱりリビングのテレビでみんなで見られるほうが良い。そういう時に、テレビがいろいろなものに対応しているのは重要だと考えています。
織田 テレビとスマホが同じWi-Fiに接続されていれば、Googleキャストを使ってスマホで見ている映像をすぐに画面に映すこともできますよ。これはスマホで見ている動画をみんなで見たいときにも便利ですし、電車で見ていた映像の続きを帰ってきたらすぐにテレビへ映すことも可能です。
小原 「帰宅して服を着替えているときも音楽を聞き続けたいから、完全ワイヤレスイヤホンは絡まなくて便利」とか言っていた小沼さんにうってつけじゃないですか(記事「完全無線イヤホン 音質か操作性か、世代で違うベスト」参照)。
小沼 たしかに……。なるべく途切れさせたくないので、そのスムーズさは良いなと思いました。
織田 テレビに映してしまえば、スマホでは別のことができます。僕も家ではテレビを見ながらスマホばっかり触ってしまうんです。
小沼 スマホで動画を見ていると、気になることがあったら動画を止めないと調べられないんです。スマホが空くのはその点では便利かも……。
小原 そんなにみんなマルチタスクなのか。世代の断絶を感じますね。
小沼 それにしてもテレビの記事なのに、ここまでテレビ放送の話をほとんどしていませんね。「TVで見たいのは、もうテレビだけじゃない。」というキャッチフレーズの本気度が伝わってきます。
福田 対応しているアプリの数も右肩上がりですからね。CookpadTVやビデオパスなど、2018年度もたくさんリリースされました。
小原 6月には2019年モデルも発売されます。小沼さん、いかがです?
小沼 令和時代の突入とともにテレビを買うことになるのか……検討します!
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操作性、画質の面でのネット動画への親和性、Googleアシスタントを活用したIoT機能の搭載。これまでのテレビでは画質や音質を追求することが最重要課題とされていたが、そこに新たな評価軸が加わった。こうした機能の必要性は人によって評価が分かれそうだが、音声入力ですぐに見たい作品にアクセスできるスマートさは、慣れると戻れなくなりそうだと感じた。リモコンにYouTubeなどのボタンがついているのも、私たちの生活によりフィットする形にアップデートされていると分かる象徴的な点だ。
こうした変化は、これからのテレビをけん引していくのか。今後の展開にも期待したい。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。大画面テレビで見たいコンテンツは「ロック系ライブのスタジアム公演(U2やロジャー・ウォーターズのライブを楽しみたい)」。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。大画面テレビで見たいコンテンツは「坂道グループ(乃木坂・欅坂・日向坂46)のライブ映像(一人ひとりの表情を見ながら鑑賞できるから)」。
(文 小沼理=かみゆ/イラスト 室長サオリ)
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