糖尿病患者とナッツ 摂取多い人の死亡リスク低く
2型糖尿病[注1]と診断されている人々のナッツの摂取量と、その後の死亡や心血管疾患の発症との関係を調べた米国の研究で、ナッツの摂取量が多い人ほど、死亡リスクや心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)の発症リスクが低いことが分かりました。
一般の人より死亡リスクが高い糖尿病患者にもナッツは有益?
ナッツには、不飽和脂肪酸や、植物性たんぱく質、食物繊維、ミネラル、ビタミン、ファイトケミカル[注2]などが豊富に含まれています。これまでに、一般の人々を対象とする研究で、ナッツの摂取頻度が高い人のほうが、高血圧、心血管疾患、がんの発症や、死亡が少ないことが示されています。しかし、糖尿病にかかっていることによって心血管疾患や死亡のリスクが上昇している人々にも、ナッツが利益をもたらすかどうかは明らかではありませんでした。
また、マメ科の一年草の種子であるピーナッツと、樹木の種子(木の実)であるそれ以外のナッツ(アーモンド、クルミ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカデミアナッツ、松の実など)の成分は異なりますが、これまでに行われた研究は、それらを区別して分析していませんでした。
そこで、米ハーバード大学公衆衛生大学院のGang Liu氏らは、2型糖尿病患者を対象に、ナッツの摂取量とその後の心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)や死亡などの関係を検討。さらに、ナッツをピーナッツと木の実に分けて詳しく検討することにしました。
分析対象となったのは、米国の医療従事者を対象とした大規模疫学研究の参加者のうち、もともと糖尿病だった、または追跡期間中に糖尿病と診断された男女1万6217人です。既に心血管疾患を経験していた患者や、がんと診断されていた患者などは除外しました。
対象者に2~4年ごとに行った食物摂取頻度調査から、前年1年間のナッツの摂取量を調べました。1皿は28gとし、「ナッツは食べない/ほぼ食べない」「1カ月に1~3皿」「1週間に1皿」「1週間に2~4皿」「1週間に5~6皿」「1日1皿」「1日2~3皿」「1日4~6皿」「1日6皿超」のいずれかに分類しました。同様に、ナッツを木の実とピーナッツに分けた摂取量調査も行いました。
研究者たちが特に注目したのは、心血管疾患の発症リスクおよび死亡のリスクと、ナッツ摂取量の関係です。
両者の関係に影響を及ぼす可能性のある要因として、BMI(体格指数)、運動習慣、喫煙、飲酒、病歴、心筋梗塞またはがんの家族歴、高血圧、脂質異常症などに関する情報も収集しました。
[注1]2型糖尿病:生活習慣病として発症する糖尿病のこと。膵臓(すいぞう)のインスリンを出す細胞が壊され、インスリンを作れなくなる糖尿病は「1型糖尿病」と呼ばれ、2型糖尿病とは区別される。
[注2]ファイトケミカル(フィトケミカル):植物性食品に含まれる栄養素以外の成分(香りや色、苦みなど)のこと。ポリフェノール類や硫黄化合物であるイソチオシアネート類、色素成分のカロテノイド類などが含まれる。
心血管疾患に関する追跡期間は22万3682人-年、死亡に関する追跡期間は25万4923人-年になりました[注3]。
ナッツの摂取量が多い人ほど死亡や心血管疾患は少ない
ナッツの摂取量は、「心血管疾患の発症」と「死亡」のリスクと関係していました。両者の関係に影響する可能性がある要因を考慮した上で分析した結果、ナッツの摂取量が1カ月に1皿未満の人(参照群)に比べ、1週間に5皿以上食べる人では、心血管疾患の発症が17%少なく、死亡も31%少なくなっていました(表1)。
心血管疾患の発症、心血管疾患のうち心筋梗塞・狭心症(冠動脈疾患)の発症、死亡、心血管疾患による死亡については、ナッツの摂取量が多くなるほど、利益が大きくなるという傾向性が見られました。一方、脳卒中の発症やがんによる死亡のリスクには、ナッツの摂取量は関係していませんでした。
次に、ナッツを木の実とピーナッツに分けて分析したところ、表2のような結果になりました。木の実を週に2皿以上食べている人は、月に1皿未満の参照群と比べて、心血管疾患の発症、心血管疾患のうち心筋梗塞・狭心症の発症、死亡、心血管疾患による死亡、がんによる死亡のリスクが低下していました。一方、ピーナッツの摂取量が多い人には、死亡リスクの低下のみが見られました。
最後に、糖尿病発症前と発症後の、ナッツの摂取量の変化と、その後の健康の関係について検討しました。ナッツの摂取量に変化がなかった患者に比べ、診断後に摂取量が増えていた患者では、心血管疾患の発症(11%減)、心筋梗塞・狭心症の発症(15%減)、死亡(27%減)、心血管疾患による死亡(25%減)のリスクが低いことが明らかになりました。
今回の研究結果は、2型糖尿病患者が、日常的にナッツ、特に木の実を食べると、死亡リスクが減少するなど健康への利益を得られる可能性を示しました。
論文は、Circulation Research誌2019年3月15日号に掲載されています[注4]。
[注3]人-年:観察対象の集団がリスクにさらされた期間の合計。同じ集団に属する10人を10年間追跡した場合は、10人×10年=100人-年となる。同じ集団に属する5人を5年間、別の5人を10年間追跡した場合には、5人×5年+5人×10年=75人-年となる。
[注4]Liu G, et al. Circulation Research. 2019;124:920-929.
[日経Gooday2019年5月8日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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