「海外の事業子会社を一方的にグリップするというようなリーダーシップは執りません。外国人社員にも共感できるような新たな経営理念『アサヒグループフィロソフィー』を作成しました。3つの柱からなるもので、 (1)消費者の目線に立ち、その期待を超える商品を生み出す (2)飲み手である消費者と作り手も一体となって喜びを共有する (3)商品価値を高め固定顧客を獲得する――といったものです」
――これからもM&Aに力を入れていくのですか。
「グローバルな価値を高めるための投資については『機を見るに敏』でやっていきます。(M&Aなどの)非連続的な成長は不可欠です。規模を買うだけでなく、新たにグループ入りすることで、買収先がどのような新たな成長ストーリーを描くことができるか、という視点から決めていきます」
企業は社会課題を解決するために、いかに貢献できるかが問われる
――次代のリーダーに何を求めますか。
「同じように経営を語ったとしても、経営者と経営評論家は全く異なります。先見性、直感力、決断力が欠けていれば、どんなに能弁に語っても、それは経営評論家です。社会の価値観は時代とともに大きく変化しています。企業は社会課題を解決するために、いかに貢献できるかが問われる時代です。社会の価値観の変化と、間合いを保ちながら経営を進めていけるか否かが、経営者に問われていると思います」
「指名委員会で社長兼CEOを決めるときは、候補者が『経営者』にふさわしい人物か否かをしっかりと見分けてほしいですね。能弁であっても決断力があるかどうか――。先見性、直感力、決断力、こうした力を持ち合わせていなければ、どんなに能弁であろうと経営者には値しません。私も後継候補については、こうした点を非常に重要視しています」
「あと加えるなら、社会適合性でしょうか。『前進』するためには、社会への対応力が不可欠です。時代とともに変化する『社会の価値観』、『生活者の価値観』をどれだけつかめるか。例えば10年前、環境保護やCSV(共有価値の創造)、ESG(環境・社会・ガバナンス)がどれだけ重視されていたでしょうか。今日、企業は財務や経営といった側面だけなく、社会的な諸課題の解決にどれだけ力を注いでいるのかが重視されています。社会的な価値観の変化に常に対応していくことが、企業には求められていると考えています」
1975年(昭50年)青山学院大法卒、アサヒビール入社。営業や10年にわたる労組専従を経て、経営戦略や人事戦略、事業計画推進などを担当。2011年にアサヒグループホールディングスの取締役と事業子会社であるアサヒビールの社長。16年にアサヒGHDの社長兼最高執行責任者(COO)、18年に社長兼最高経営責任者(CEO)
(後藤健)
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