MONGOL800の同名曲にインスパイアされた映画『小さな恋のうた』が2019年5月24日に公開された。沖縄の高校生バンドで活躍していた兄が果たせなかった思いをかなえるために、ギター&ボーカルとしてバンドに加入するヒロイン・譜久村舞を演じているのは、現在18歳の山田杏奈だ。

「歌が大好きで、カラオケにもよく行きますし、家でもずっと歌っているんです。そんな歌にお芝居で挑戦できるのが純粋にうれしかったです。ただ、ギターや楽器には触れたことがなくて、クランクインする前に半年間くらい練習期間を設けていただきました。
主演の佐野勇斗さんなど映画でご一緒するみなさんと合同で練習することが多かったんですが、この練習の中でバンド感が生まれて、役作りの面でも大事な時間でした。映画のなかでは全員、演奏しています。実際に歌ったり、演奏しないと出ないリアルな表情があると思うので、練習から逃げなくて良かったと本当に思います」
18年は『ミスミソウ』で映画初主演、さらに『幸色のワンルーム』で連ドラ初主演を果たした山田。前者は家族を殺害され復讐を行う少女、後者は自分を誘拐した犯人と心を通わせる少女と、いずれも影のある役だった。だが、今回演じた舞は、立ちはだかる苦難を自ら乗り越えていく前向きな役だ。
「闇があるとか、影の部分があるクールな役を演じることが多かったんですよね(笑)。声が落ち着いているのと、そんなに感情的にならないタイプだからかなと自分では思います。でも、舞は明るい部分があって、今までにない自分を見てもらえると感じました。表立っては言わないけれど、自分の中に意思がある点など、舞は私に似ていると思います。違うのは、舞のように積極的に行動に移せないところ。演じて舞が好きになりましたし、彼女みたいに主体性を持ちたいなと影響を受けました」


自分に厳しく取り組みたい
11年に少女漫画雑誌『ちゃお』主催の「ちゃおガール2011☆オーディション」に応募してグランプリを獲得。18年からは浜辺美波・久間田琳加とロッテ「ガーナチョコレート」のCMにも出演するなど活躍の場が広がっている。
「もともとは芸能界に入りたいと思っていなくて、このお仕事を始めるきっかけになったオーディションも、副賞のゲーム機が欲しくて応募したんです(笑)。事務所で演技レッスンを始めたばかりの頃は、正直そこまで演技が好きじゃなかったし、楽しいと思いませんでした。
でも、中学3年生の頃から少しずつオーディションに受かるようになると、普段は自分のキャラクターや立場を考えると実行に移せないことを、役として思いっきりできるのが楽しいと感じるようになりました。今は、現場でお芝居をしている時間が一番好きで、安心できて、ほんとに幸せですね。これからも撮影現場で生きている人でいたいなって思います。役でいる時間を、存分に楽しみたいです。
台本をいただいて、演じる役がどういう人かをイメージするのは得意なほうだと思います。昔から本をよく読んでいた影響があるかもしれません。幼稚園の頃から母親が週に1回、図書館に連れて行ってくれ、毎週10冊を借りて全部読み、また新しい本を借りてというのを繰り返してたんです。
今はそれほど習慣的に図書館に行く機会はないですけど、本を読む行為に慣れさせてくれたことが、今にもつながってるんじゃないかなって思います。でも、このようにインタビューしていただくときに全部を伝えきれていないという思いがあるので、もっと自分の言葉を持ちたいです」
そう謙遜するが、山田は丁寧に言葉を選び、思いを伝える。まだ18歳とは思えない、才気と思慮深さが印象的だ。素顔の山田は、明るく親しみやすいキャラクターで、「周りからはよく、まじめだと言われます」と話す。
「普段は、ご飯を作ることが好きです。裁縫も好きですが、どちらも無心になれるのがいいですね。『滝行もしてみたいです』と言ったら、なんか悩みがあるみたいですが、別に病んではいないですよ(笑)。ついいろいろと考えてしまうので、リセットする時間が大事だなと思うんです。
この春に高校を卒業したのですが、大学には進学せず、お仕事1本で行くと決めました。学生という強い肩書がなくなって、今まで以上に、私自身、人間としての魅力が試されるようになると思うんです。同世代には魅力的な女優さんがたくさんいます。その中で生き延び、何年経っても輝いているために、今は人生経験を積むことと、演技を磨いていく時期だなと。人間的な魅力があると、役にも深みが出てくると思うので。そして、この役は山田杏奈にやってほしいと思ってもらえるような女優を目指して、自分に厳しく、やっていきたいです」
(ライター 高倉文紀)
[日経エンタテインメント! 2019年6月号の記事を再構成]