マイクロソフトSurfaceの父が語る、日本は先行指標
西田宗千佳のデジタル未来図
マイクロソフトといえばWindowsとオフィス・ソフトの会社というのは昔の話。いまや、同社の稼ぎ頭はクラウドになろうとしている。そして、マイクロソフト・ブランドを象徴する製品は、パソコン(PC)の「Surface」なのではないだろうか。
Surfaceの日本での人気は特に高い。2018年度は前年度比で50%以上売上を伸ばしたが、2019年度はなんと「それ以上の可能性が高い」(マイクロソフト)のだという。
そんなSurface事業のトップであり、製品の方向性を決定するキーマン中のキーマンである、米マイクロソフト最高製品責任者(CPO)のパノス・パネイ氏が2019年5月中旬に来日した。
パネイ氏の考える「日本でSurfaceが支持される理由」や、今後のSurfaceなどを聞いてみた。
Surfaceがヒットする日本は「進んだ国」
パネイ氏はマイクロソフトに入社する前、日本企業に勤めていた経験を持つ。そのため、親日家で来日経験も多い。「東京の食は世界一。一番好きな食べ物は、カジュアルなものだが『焼き鳥』だ」と話すくらい、日本のことをよく知っている。今回の来日の目的は、Surfaceの大口顧客である企業などにヒヤリングすること、そして後述する「Surface Hub 2S」という製品の日本投入をアピールするためだった。
そんなパネイ氏は、「日本市場はマイクロソフトにとって先行指標のひとつ」と評価する。
これは、多くの人にとって多少驚きではないだろうか。日本はIT技術の導入も遅く保守的で、いわゆる「働き方改革」も遅れている、というイメージがある。PCもなかなか最新の製品へ置き換えが進んでいない。
だが、パネイ氏の見方は少し違う。日本でSurfaceが売れているためのリップサービス、というわけではないようだ。「来日のたびに街を観察している。色々な人々が、スターバックスやバー、レストランなど、どこでもPCを使って作業している姿を見かける。『働き方改革』という言葉があるが、本質は『生活や仕事の多様性』であり、世界のあちこちで変化が起きている。Surface活用が進む日本において、モバイルを活用した取り組みは世界をリードしているといっていいだろう」
日本はモバイルPCの利用率が特に高い。モバイルネットワークの品質も高い。そこで、業務用機器から一般的な事務まで、モバイルPCの出番は非常に多い。Surfaceをカフェなどでみかける率も高くなっている。顧客の元でどう使われているのか、という点において、日本市場は「Surfaceを使った働き方改革」の先進国、とパネイ氏は見ているのだろう。
生活シーンに合わせてラインアップを強化
Surfaceには色々な製品が用意されている。多くの人がイメージするのは、キックスタンドを備えた2-in-1タイプ「Surface Pro」シリーズだと思うが、一般的なラップトップ型の「Surface Laptop」シリーズや、画像処理を高速化するGPU搭載の大柄なノートパソコン「Surface Book」シリーズ、デスクトップ型の「Surface Studio」シリーズなど、様々なサイズの製品がある。「様々な製品がラインアップされていることが、Surfaceの強みであり価値。日本では、それぞれを生活シーンに合わせて使い分ける形が定着しているからこそ、成功している」
パネイ氏はそう話す。特に日本の場合には「LTEなどの通信機能を内蔵した製品が受け入れられている。コンパクトな製品の比率も高い。そうしたスタイルを、自分で選択して使うことが、受け入れられた理由であり、世界に対して進んでいる点」とも言う。
中でも、日本の意見を採り入れて作られたのが「Surface Go」である。10インチディスプレイを備えた2-in-1で、6万3000円台からと、価格も比較的抑えめ。持ち歩きやすい小型・軽量のデバイスのニーズは日本が特に高い。そのため、開発においては日本からのニーズが大きく反映されたという。
最新のSurfaceは、巨大な50型・4Kディスプレーを使った「Surface Hub 2S」だ。これはPCではなく、タッチパネルを活かしてコミュニケーションを促進するためのデバイス。受注生産・本体価格が税込みで100万円を超えるというハイエンドデバイスだが、「ビジネス環境の中での価値は、使っていただければわかる。教育市場などでも有用なもの。プレミアム価格帯であるのは事実だが、相応の価値はある」(パネイ氏)と自信を見せる。
重要なのは「人とのかかわり」、次の展開は秋か?
Surfaceを作る上で、パネイ氏が最も重視しているのは「技術ではない」という。「最も重要なのは、ハードウエアとソフトウエアを使う『人』。テクノロジーを人に意識させない一方で、テクノロジーは人が進みたい場所へと導き、目的地でイノベーションを実現すべく待ち構え、そして、人々の頭脳として機能する。私がすることは、人々が前に進むことを助け、やりたいことを実現できる環境を用意することだ」(パネイ氏)
色々なデバイスを用意し、バリエーションを広げるのもそうした発想の一環である、というのがパネイ氏の見解である。
では、今後どんなSurfaceが出てくるのか? パネイ氏はもちろん「ノーコメント」である。だが、ヒントを二点くれた。
Surfaceのスタート地点は、キックスタンドのついた2-in-1製品。あの形を作ったことが、その後のPCを変えた。あのように、新しい使い方・スタイルを提案する製品はあるのだろうか?
「ひとことだけ。イエス」パネイ氏はそう答えた。その上で、取材の最後にこう答えた。「今年の10月、またお会いしましょう」
19年10月に新製品が出るとも、それが新デバイスであるとも断言されたわけではないが、パネイ氏が新しい製品に取り組んでおり、半年後にはまた日本になんらかのアピールのためにやってくるのは間違いなさそうだ。そんなリップサービスをしたくなるくらい、Surfaceにとって、日本市場は重要な場所なのだろう。
筆者としては、いくつか改善を望みたい面もある。例えば、店頭モデルに必ずマイクロソフト・オフィスが付属するため割高になっている点や、Surface Go(10インチ)にSurface Pro(12インチ)のキーボードがつけられない、といったことだ。パネイ氏が言う「自由に選んでもらいたい」という製品に、さらに向かっていってほしい。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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