茶屋体験や備品購入OK… 東京の個性派ホテルに浸る
オリンピック開催を控えた東京では、高級ホテルでもビジネスホテルでもない個性派ホテルが最近続々と登場している。独創的なサービスとこだわりの「おもてなし」で、訪日客にアピールする新しいホテルを訪ねてみた。
良品計画が4月に東京・銀座に開いた「MUJI HOTEL GINZA」のコンセプトは「アンチゴージャス、アンチチープ」。客室は「家にいるようなくつろぎ」を志向したシンプルで暖かみのあるインテリアで、備品の多くはホテルと同じビルの「無印良品」店舗で購入できる。
9タイプの客室の宿泊料は年間均一
同ホテルの福島悠支配人は「パジャマなどの寝具類を気に入り、下の店舗で購入していく宿泊客が目立つ」と話す。耐久性が求められるシーツなどはホテル専用品を新たに開発したといい、将来的には店舗で販売する予定という。
9タイプある客室の宿泊料は年間を通して均一で1万4900~5万5900円(税・サービス料込)。「いつでも、誰でも同じ価格」で販売するため、インターネット上のホテル予約サイト等での販売は一切していない。
ホテルロビーのある6階には、和食レストランやコーヒーや酒類が楽しめる「サロン」、アート展示を行う「ギャラリー」、デザイン関係の本が並ぶ「ライブラリー」がある。これらは無印良品の買い物客や銀ブラを楽しむ人の休息スペースにもなっている。
福島支配人は「銀座には高級店ばかりでなく、親しみやすい老舗も多い。今後、銀座ツアーなどのイベントを通して町と人をつなぐハブとしての役割も果たしていきたい」と話す。
地元のクリエーターとコラボ
一方、昨年11月にJR上野駅近くにオープンした「ノーガホテル上野」は野村不動産が手掛けたホテルだ。特徴は同地域在住の職人やクリエーターと連携したサービスを打ち出していること。
エントランスを入ると、フロントやエレベーターホールの壁に地元アーティストのモダンアート作品が飾られている。1階のビストロで使うワイングラスや客室の家具や部屋着、靴べら、ハンガー、アメニティグッズに至るまで、地域の職人と開発したオリジナルプロダクトだ。
同社ホテル事業課の中村泰士氏は「不動産事業を通じて地元とのつながりを大切にしてきたことで、地域とコラボレーションしたホテルづくりという発想が生まれた」と話す。ダブル、ツイン、スイートなど7種の客室タイプがあり、ダブルの宿泊料金は欧米のブティックホテルを意識した2万~3万円台が中心。
館内アートやカードキーのデザインを担当した「京源」は明治43年(1910年)創業の紋章上絵師の工房。近年はパソコンを駆使し、デザインとしての家紋を志向する波戸場承龍代表は「ノーガホテルに新しいことに挑戦するチャンスをいただいた」とコラボを心から楽しむ。
昨年12月、1899年創業の老舗旅館である龍名館が港区の新橋6丁目にオープンした「ホテル1899東京」は"現代的な茶屋体験"につながるおもてなしに力を入れる。龍名館広報部の山口沙織さんは「茶屋体験といってもかしこまったものではなく、お茶を通してほっこりできる時間を提供したい」と話す。
1階のデリ&バルはお茶を使ったメニューやデザート、抹茶ビールなどを出し、近隣で働く女性に人気が高い。2階フロントは茶室を模したユニークな造り。カウンターには茶釜が備えられ、フロント係が客の希望によって煎茶か抹茶でもてなしてくれる。
客室はダブルと角部屋のツインのみで、1泊2万円代が中心。抹茶色のカーペットが敷かれた室内には、茶せんを模した照明がともり、茶葉デザインの部屋着や緑茶成分入りのシャンプーやボディーソープが備わる。日替わりで「1899」ブランドの4種の茶葉が急須や湯飲みと共に各部屋に準備される。水回りをベッド脇に配置した部屋や縁側スペースを設けた部屋など、茶を楽しむ工夫と遊び心が館内の随所に見られる。
ここ数年、都心部には他にも個性派ホテルが登場している。旅行者が自分好みのホスピタリティを選ぶ楽しみがどんどん増えている。(ライター 大谷 新)
[日本経済新聞夕刊2019年5月18日付]
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