71歳の夫がおしゃれ好きすぎる
作家、石田衣良さん
71歳の主人は若いころからお洒落(しゃれ)さんですが、やや度を超しています。洋服は専用タンスに入りきらず、60足入りの靴箱はほとんどが主人のもの。出かけるとき「どう?」と聞いてきて、私が言いよどめば一から選び直しです。買い物にも付き合わされてクタクタになります。普通の「ちょっとおしゃれなおじさん」になってほしいです。(大阪府・60代・女性)
◇
最近、よく同窓会に呼ばれるようになりました。クラスメートの誰の顔も等しく法令線が深くなり、こじわやしみが目立つのに、なぜか目だけはキラキラと輝いて昔と同じまま。数十年の時間を軽く飛び越えるのです。あっ中学2年生のやつがいる! いや人間って、ほんとにおもしろいものですね。
さて、そんな同窓会で気づいたことがひとつ。かつての少女たちが群がる男性は、かならずといっていいほどお洒落なのです。それはそうですよね。顔はみんな加齢によって、くたびれ果てている。となると残るのは、せいぜいファッションくらいのもの。年をとってセンスのかけらもない服を着ているより、お洒落すぎるくらいのほうが、逆にいいではありませんか。
ファッションは、その人のお洒落さだけでなく、今の時代にどう向きあっているか、どんなふうに人生を楽しんでいるかを語る重要な指標です。とくにあなたの夫の年齢になれば、たいていの男性は時代と戯れるセンスを喪失しているもの。
外出のたびに全身をトータルコーディネートして、妻にチェックしてもらうなんて、かわいらしい夫ではありませんか。確かにちょっとめんどくさいときもあるかもしれません。玄関先で待たされたりするときは、小腹が立つこともあるでしょう。でも、あなたが選んだ人なのです。少々の欠点には目をつぶりましょう。現役時代のドブネズミ色の背広を着た彼と出かけるより、ずっとましなはずです。
それから、あなたにもひと言アドバイスを。もう還暦を過ぎているんですよね。たとえ妻であろうとも、71歳の男性の生きかたを、この期におよんで変えられるなんて幻想は、完全に捨ててください。彼は彼なりに、あなたはあなたなりに生きる。夫婦でも人を変えることなど、もう不可能なのです。
結婚のトラブルのほとんどは、ありのままの相手の姿を受けいれられないことから始まります。結婚後10年も過ぎたら、相手のいいところも悪いところも、すべて受けいれましょう。破れ鍋にとじ蓋。それがすべての夫婦の在りかただと、最初から決まっているのです。
[NIKKEIプラス1 2019年5月25日付]
NIKKEIプラス1の「なやみのとびら」は毎週木曜日に掲載します。これまでの記事は、こちらからご覧ください。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。