千葉と埼玉の小江戸対決 魅力的なのは佐原か川越か

佐原地区の小野川沿いには古い商家や民家が立ち並ぶ
佐原地区の小野川沿いには古い商家や民家が立ち並ぶ

東京五輪を控え、観光客が増える埼玉と千葉県。両県への2017年の観光入り込み客数は、約3億人と5年前と比べ1割超増えた。合計人口の約22倍にあたる人が訪れた計算だ。特に訪日客を中心に注目が高いのが、「小江戸」と呼ばれ、江戸時代の街並みが魅力的な埼玉の川越と千葉の佐原だ。観光客を呼び込むため、県や地域を巻き込んだ誘客施策を競い合う。

佐原、伊能忠敬旧宅が人気

「お江戸見たけりゃ佐原へござれ」。江戸時代の戯れ歌にもうたわれた千葉県香取市の佐原地区は利根川の水運で発展し、街なかには江戸期から明治期に建てられた商家や民家が今も立ち並ぶ。街の中心部を流れる小野川の遊覧船から見上げた両岸の風景は、かつて「江戸まさり」とたたえられた街の繁栄ぶりを今に伝えている。

「まるで映画のセットみたい」「明治時代の建物がいまも現役で使われているんだね」。東京から電車でおよそ2時間の「北総の小江戸」。小野川沿いを散策する観光客は興味深げに古い建物の一つ一つをのぞき込んでいく。

佐原で特に観光客の人気を集めているのが伊能忠敬の旧宅だ。隠居後に日本地図測量の旅に出る前、忠敬は商人として佐原で醸造業や薪炭販売業などを営んでいた。寛政5年(1793年)築の書院をはじめ、忠敬が暮らした当時の建物が今も残る。

街並みは昔ながらの姿を残しつつ、新しい仕掛けづくりも着々と進む。佐原は宿泊施設が少ないのが悩みだったが、2018年3月に官民による街づくり会社が古民家を改修し「佐原商家町ホテル NIPPONIA」をオープン。床の間やハシゴ階段など昔ながらの内装を生かしつつ、おしゃれな現代家具を配する粋な風情が人気を集めている。

街最大のイベント「佐原の大祭」の山車行事は川越と同様、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に指定されている。ただ、集客力の面で埼玉の小江戸「川越」の後じんを拝しているのが現状だ。千葉県の集計によると、佐原周辺の観光客数は近隣の香取神宮などを含めて525万人(17年)。川越に比べると東京都心からのアクセスに難があり、集客には不利に働く。

一方、佐原は成田空港からバスで20~30分と「世界の玄関口」に近いのが強みだ。香取市も外国人の誘客に力を入れており、世界の「SAWARA」への進化を目指す。

川越、18年の観光客は過去最多

かつて城下町として商業が発展し、江戸からの物資の集散地として栄えた埼玉県川越市。「蔵づくりの街並み」と呼ばれる一帯では浴衣姿の外国人や刀を差した着物姿の観光客が風景に溶け込み、「小江戸」の代表格としての風情を醸し出している。

川越のシンボル「時の鐘」は「残したい日本の音風景100選」に認定されている

JR、東武、西武の鉄道3線が乗り入れ、東京都心から約1時間と交通利便性が高いのが魅力だ。観光客は増加傾向で、18年には過去最高の734万に達した。3月からは川越と神奈川県の湘南地区を乗り換えなしで結ぶバスの運行も始まるなど、潜在的な観光需要を掘り起こす取り組みも加速している。

16年に川越氷川祭の山車行事がユネスコの無形文化遺産に登録され、海外からの注目度も高い。18年の訪日外国人(インバウンド)は前年比42%増の約28万人。最も多いのが台湾からの観光客で「川越を気に入った旅行客が、翌年に家族連れで再訪することもある」(本川越駅観光案内所)という。

訪日客の増加を受け、観光案内所では外国語対応を強化する。英語、中国語のほかに韓国語、スペイン語、ドイツ語を話せるスタッフを配置し、観光案内だけではなく周遊バスの乗車券販売も手掛けるワンストップサービスが特徴だ。案内所を運営するまちづくり川越(同市)の高田泉常務は「おもてなしではどこにも負けない」と力を込める。

課題はいかにお金を落としてもらうかだ。都心への近さは日帰り客の多さにつながる。夕方になると潮が引くように外国人観光客は消える。周辺に空港や港がなく、宿泊客を取り込みづらい事情もある。

今夏には県と協力し、観光案内所のスタッフによる英語ガイドツアーを始める予定だ。満足度向上や滞在時間の延長を目指すほか、口コミサイトのレビュー数を蓄積し、誘客にもつなげる。「小江戸は川越」との地位を揺るがぬものにするために、地元の試行錯誤が続いている。

(下村恭輝、伴和砂)

[日本経済新聞朝刊2019年5月17日付]