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水産物禁輸で逆転敗訴 日韓の利害超えた大国の思惑も

2019/5/21

福島県産の冷凍水産物の輸出量は、18年度に2845トンと事故前の08年度以来の高水準でした。被災地の食品輸出が盛り上がった直後のつまずきは取り返しがつきませんが、再度同じ轍(てつ)を踏まないようにしてもらいたいものです。

■川瀬剛志・上智大学教授「国際法に詳しい人材の育成を」

今回のWTO上級委員会の判断について、国際法に詳しい上智大の川瀬剛志教授に聞きました。

――上級委員会の判断のポイントは何でしたか。

川瀬剛志・上智大教授

「WTOは国家間の貿易紛争を解決する際、基本的には通商の自由を尊重する立場だ。しかし食の安全と衛生に関わる問題となると、過去にも自由貿易を制限するような慎重な判断を下してきた経緯がある。今回も放射線という食品衛生にとって微妙な問題であるだけに、慎重な立場をとった可能性がある」

「もう1つ、上級委が意識していたと考えられるのが、米国による『オーバーリーチ論』と呼ばれる批判だ。日本語では『(上級委の)出しゃばり論』という言い方が当てはまるが、米国は上級委がWTO加盟国に対し、貿易規制をとる権限を抑止するような出しゃばった判断を下すことを批判してきた。上級委はこうした批判も意識し、放射線の安全性という大きな問題について、明確な立場を示さなかった可能性がある。放射線被ばくについて年1ミリシーベルトという明確な基準を示した、日本にとって不利になったかもしれない」

――日本政府に落ち度はなかったのでしょうか。

「WTOの問題については日本政府も意識して法廷闘争に臨んだと思われるし、論点を選ぶ際にも大きなミスがあったとは思えない。しかし2点、指摘したい。まず一審パネルの段階で、日本政府側は今後、当事者国の関係者ら一部しか閲覧できない判決の下書きを詳細にチェックする必要がある。上級委の微妙な立場に対し、自らの主張がはっきり反映されたのかどうかを確かめるためだ。2つ目に上級委で判断が覆る際には、当事者国は『判断の完遂』といって、上級委に対して明確な判断を下すよう求めることができる。日本政府は権利を行使しなかった。自らの主張の何が受け入れられ、何が受け入れられなかったかを検証する機会を失った」

――教訓は何でしょう。

「国際的な訴訟に関われる人材を育成することに尽きる。教育現場では最近の司法制度改革により、国際法などを学ぶ場が少なくなっている。改革はグローバル化の時代に逆行していると思う。通商交渉を担う省庁でも、民間の弁護士事務所などと共に最新の国際訴訟に関わる知識を養うなど、官民を挙げて力を蓄積する必要がある。韓国は日本より国内市場が小さい分、通商問題への危機感が強い。米国のロースクールで学ばせるにしても、韓国の方が日本より人材を長く派遣しているという肌感覚を持っている」

(高橋元気)

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