「最速でCEOの座から離れる」ことが目標

流郷さんにとって、仕事を引き受けるかどうかは、「自分の子どもが80歳になったときでも、その事業が多くの人の役に立っているかどうか」が判断基準なのだという。「それを考えたとき、ムスカの事業はドハマリしました。世界では人口が増え、食料危機もささやかれている中、ハエの力で持続可能な社会に変えるなんてとても魅力的に思えて。でも虫は正直苦手なんですけど(笑)」
最初はムスカの執行役員として広報を担当していたが、ある時創業メンバーからこんな打診があった。「CEOとして表に立ってほしい」。突然の申し出に最初は当然ちゅうちょした。「私はCEOの器ではありませんと断ったんですが、この事業は大きく成長してほしい。できることは何でもしたいと思っていたので、事業としてムスカが稼働し、次のCEOにバトンが渡せる状態まで責任を持つという形で、暫定CEOという役職になりました」
今は自らムスカの広告塔として、事業を世の中に広めるために奔走する。「ハエはもともと食べ物にたかるなどマイナスイメージが強いです。ただ、うちのハエはサラブレッドでとても優秀なんです。その素晴らしさを伝えたい。ムスカの事業が成長して、私がCEOの座から離れることが当面の目標です」
苦手だと思う仕事も、アイデア次第で楽しい仕事に変えることができる。そんなことを身をもって示してくれた流郷さん。「どんな場面でも自分の軸さえぶれていなければ、理想の働き方ができると思います」
流郷綾乃
昆虫テックベンチャーのムスカ暫定CEO。1990年生まれ。高校卒業後、アロマセラピストとして働く。結婚、出産を経て21歳の時に営業代理店に就職。その後、25歳のときにフリーランスとなり、さまざまな企業の広報業務、人材教育を担当する。28歳でムスカの暫定CEOに就任する。

(取材・文 飯泉梓=日経doors編集部、撮影 花井智子)
[日経doors2019年3月28日付の掲載記事を基に再構成]