――UUUMは通常、企業から動画1本いくらという形で仕事を受けていますが、パラサポとはお金のやり取りが発生していないと聞いています。企業の社会的責任(CSR)の一環という位置づけでしょうか。

鎌田 山脇さんからロンドンパラリンピックの話を聞いて、僕が一番印象的だったのは、子供が「パラリンピックを見に行きたい」と言って、お父さんの手を引っ張っていく光景です。その文化は日本に当然ありません。

あえてCSRという言葉を使うとすれば、僕らの会社はコンテンツを作っていて、何かしらの影響力を人に与える会社だと思うんです。僕たちだからできることって、やっぱり若年層にリーチすることですから、一緒にやれるのではないかと思いました。

ユーチューバーも「成長」できる

――山脇さんから「ユーチューバーの成長」という言葉がありました。鎌田さんとしても、彼らにそういう機会を与えたいという狙いがあるのですか。

鎌田 僕らのところにいるユーチューバーで、たとえば皆さんがよくご存じの「HIKAKIN」は今年やっと30歳です。影響力のあるほかのユーチューバーだって、それ以下が多いです。社会人になってやっとみたいなタイミングですよ。良くも悪くもユーチューバーは社会に出て行くことが、一般の人より少ないと思うんです。こういう体験をさせてあげることによって、彼らは成長していけると思いますね。

対談に臨む日本財団パラリンピックサポートセンターの山脇康会長(右)とUUUMの鎌田和樹社長(東京都港区)

――パラサポは車いすの人、目や肢体が不自由な人、障害のない人がチームを組んでタスキをつなぐ「パラ駅伝」を毎年開いています。昨年はユーチューバーの「はじめしゃちょー」が見に行って動画を作ったところ、再生回数は320万回を超えています。今年は「フィッシャーズ」が競技に参加し、彼らのツイートがすごく拡散しました。ユーチューバーの何が人々をひき付けるのでしょうか。

鎌田 僕らが企業からの依頼で動画をつくったとき、一番いいのは、お金と関係なく、彼らが自発的にやっちゃうときなんですね。もちろん仕事ですから、(動画の)閲覧数を押し上げることはできますし、実際に効果も上がっているのですが、もともとの事象がいいか悪いかは僕らの手の届かないところにあって、本当にいいものは、それがユーチューバーにちゃんと伝われば、勝手に拡散していくのだと思います。

ユーチューバーがパラスポーツの大会に参加したとき、彼らは仕事としてつぶやいている意識はありませんし、そういうオファーも僕らはしていません。やっぱり1人の人間として、ツイートとかしている。仕事とか、ユーチューバーとかの垣根から出ちゃっていると思います。

――山脇さんは実際にユーチューバーがつくった動画やツイッターをご覧になって、どう感じましたか。

山脇 自分の目で見て、体で感じて、発信してもらえたと思います。本来、スポーツは障害による垣根とか差別に関係なくて、そうしたもやもやしたものを作っているのはメディアであり、僕らの方なんです。

感性の非常に鋭い人たちは、自分なりに解釈するというところから始まっているので、見る人も、すごく理解できるとか、自分も行ってみたいという気持ちになるのではないでしょうか。僕らがうまく伝えられないことを、かみくだいて、違う方法で伝えてくれる。これはすごいことです。

フィッシャーズが車いすバスケを体験した動画の再生回数は数日間で100万を超えた(ユーチューブから)

――今年3月のパラ駅伝では、参加したフィッシャーズがとても楽しんでいる様子が伝わってきました。

山脇 たぶん最初は「パラアスリートすごい」と思っていても、その後いろいろ考えると、「これはちょっと奥が深いな」と感じて、表現もいろいろ考えてくるんじゃないでしょうか。それが成長の過程になるのではと思います。押しつけがましいですが(笑)

鎌田 パラ駅伝が終わった直後、フィッシャーズと話したんですが、「次はガチンコで(車いすの)バスケットボールをやりたい」と言っていましたね。パラ駅伝でさんざんに負けて悔しかったということもありますし、仕事と関係なく、次はこんなふうにやりたいという意識がすごく強いです。一回、なかに入ってやってみると、さらに理解が得られるようです。

山脇 機会を設けますので、是非。こてんぱんにやっつけますから。ははは。

(注)後日、フィッシャーズは車いすバスケットボールを体験し、その模様を収録した動画をユーチューブに公開した。数日間で再生回数が100万を超えるヒットとなっている。

――パラ駅伝のような競技会以外でも、パラサポとUUUMが連携できることはありますか。

山脇 パラリンピックの価値を子供たちに伝えるため、国際パラリンピック委員会(IPC)が開発した「I'mPOSSIBLE」(私はできる)という教材があります。それをユーチューバーに渡して、動画を作ってもらっています。

実は、パラサポはその教材を本にして全国の小学校に無償で配ったのですが、先生は学習指導要領をこなすのに精いっぱいで、なかなか使ってくれません。だったら、まず子供にユーチューブを見てもらって、子供の方から「先生、なんで授業でやってくれないの?」と言わせるしかないと考えました。

(聞き手と構成は高橋圭介)

=後編(「ユーチューブの流儀 パラスポーツ普及の壁越える」)に続く

山脇康
1948年1月生まれ。70年名古屋大経を卒業後、日本郵船に入社。副社長など歴任。11年から公益財団法人日本障がい者スポーツ協会理事、13年から国際パラリンピック委員会理事、14年から東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副会長、および日本パラリンピック委員会・委員長、15年から日本財団パラリンピックサポートセンター会長。
鎌田和樹
1983年12月生まれ。2003年光通信に入社、10年執行役員。起業家である孫泰蔵氏との出会いをきっかけに、光通信を辞めて起業を決意。人気ユーチューバー「HIKAKIN」との出会いを経て、13年にUUUM(当時はON SALE)を設立し、同年から社長。17年、東証マザーズに上場した。