失われたカリブの手描き植物図鑑 190年ぶりに発見

日経ナショナル ジオグラフィック社

地道な調査から発見へ

ところで、この発見がなければ、ウルストンクラフトの業績は世に出ることはなかったかもしれない。その意味でも、発見した元弁護士で歴史家、キューバのものなら何でも収集するというエミリオ・クエト氏の功績は大きい。

ウルストンクラフトの仕事が記録されたのは、1828年にスペイン語の週刊誌「El Mansajero Semanal」に、キューバから亡命した人権運動家のフェリックス・バレラ神父とホゼ・アントニオ・サコが、「キューバ在住で、キューバの植物を絵に描いている米国人女性がいる」と書いたのが最初だ。

ウルストンクラフトの原稿をめくるコーネル大学稀覯本写本コレクションの所長アン・ソウアー氏(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)

クエト氏はウルストンクラフトの作品を直接目にすることなく、実際に作品が残っているかどうかもわからないまま、2002年にヒストリーマイアミ歴史博物館で自ら開催したキューバの動植物展で、展示目録の参考文献一覧にウルストンクラフトの名を加えた。

過去の文献を当たってみると、ウルストンクラフトの英語のつづりが違っていたり、旧姓のキングスブリーが使われている資料もあった。さらに、下の名がアンになったり、ナンシーに変わったりした。

クエト氏は、ウルストンクラフトの原稿を探してオンラインの図書目録を100回以上調べた末、ついに2018年3月、目指すものに行き当たった。作者名のつづりがやはり誤表記されていたのだ。扉に書かれた筆記体の母音が判別しにくかったのだろう。苗字の「a」が「o」に変わっていた。だがクエト氏には、これが探し求めていたものであることがわかった。

「やった!あの女性だ、と思いましたね。これこそ探し求めていたものだと。つづりの間違いをはじめ、いくつもの不幸が重なって、これまで埋もれていたんです」

偉大な女性科学者

ラッセル氏が調べたところによると、ウルストンクラフトは1828年に46歳で死去した。後には、書きかけの項目や下書きのメモ、本に綴じられていない原稿などが遺されたという。

「彼女の仕事は未完でした。しかし、図鑑を見つけなければ、彼女が残した仕事が永遠に忘れ去られていたかと思うと、寒気がします」と、ラッセル氏。

クエト氏は現在、ウルストンクラフトの業績を次世代へ伝えるために活動している。ウルストンクラフトが第2の故郷としたキューバのマンタサスへ出かけて墓を見つけ、当時の地元新聞に彼女の名を探した。そして、彼女は19世紀に転地療養のためカリブ海へ移住した多くの米国人のひとりだったのではないかと考えた。米国で著名な女性の権利活動家メアリー・ウルストンクラフトは、彼女の義姉に当たる。

落葉樹のインドソケイ(Plumeria rubra)は中米が原産だが、今は世界中の熱帯地域に分布している(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)

クエト氏は、多くの観光客が訪れる米国の首都ワシントンDCの国立女性美術館で、発見したばかりの原稿を展示する計画を立てている。また、最終的に本にして出版することも考えている。その際、序文として原稿の発見に至った過程も書き加えたいという。スペイン語に翻訳すれば、キューバの読者にも読んでもらえるだろう。

「科学と芸術の分野から忘れられていた新しい米国人科学者であり画家を発見しました。もっと長生きしていたら、きっとその世界では重要な存在になっていたでしょう」

次ページでも、ウルストンクラフトが描いた美しい「植物図鑑」をご覧いただきたい。

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