失われたカリブの手描き植物図鑑 190年ぶりに発見

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

米大陸の熱帯から亜熱帯に分布するオオゴチョウ(Caesalpinia pulcherrima)のイラスト。コーネル大学図書館の稀覯本写本コレクションに所蔵されていたアン・ウルストンクラフトの手描き原稿に含まれていたもの(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)

米国ニューヨーク州北部で、190年間失われていた手描きのイラスト原稿が見つかった。3巻にわたる図鑑ともいうべきイラスト集には、カリブ海の国キューバに生育する様々な植物が色鮮やかに描かれている。写真で紹介していこう。

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マーブル模様の表紙を開くと、扉に手書きの筆記体で「Specimens of the Plants & Fruits of the Island of Cuba by Mrs. A.K. Wollstonecraft」(A・K・ウルストンクラフトによるキューバの植物と果実の標本)と書かれている。手稿は経年による摩耗がみられるものの、その内容は飾り気のない外見からは想像できないほど充実していた。

121枚のイラストには、深い紫色のサルスベリや黄色のキダチチョウセンアサガオといった花々が細かい部分まで見事に描き込まれている。

これに加えて、関連する歴史的事実、現地での利用法、詩、個人的な観察記録などが英語で220ページにわたってつづられている。イラストは科学的慣習に忠実に従い、植生、植物の一生、生殖部の断面図が描かれていた。押し花がテープで貼り付けられているものもあった。図鑑を作ったウルストンクラフトは、植物学者の助言も得ず、誰からも支援を受けなかったと、断り書きを残している。

「キューバの植物に関する文献の宝です」とは、キューバ人植物学者ミゲール・エスキベル氏の弁だ。そして、近年まれにみる偉大な発見であると語る。

落葉樹のインドソケイ(Plumeria rubra)は中米が原産だが、今は世界中の熱帯地域に分布している(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)

「アン・ウルストンクラフトの原稿の発見は、大変重要だと思います」。米ワイオミング州ジャクソンにある脳内化学物質研究所の所長で民族植物学者のポール・コックス氏も言う。「彼女の描いた植物とその説明は特に珍しいものではありませんが、現地の人々がその植物をどのように利用していたかに関する詳細な説明は、植物の利用可能性についてまったく新しい理解をもたらしてくれるもので、新たな薬剤開発につながるかもしれません」

例えば、サワーソップという木の根は魚中毒の解毒剤に使われ、その葉は駆虫薬や抗てんかん薬に用いられると書かれている。また、「病的な甘さ」と表現される果実に「サワー」という名は合わないと思っていたら、島の先住民がこの木を「スーサック」と呼んでいたことから、発音が少し変化してサワーソップと呼ばれるようになったのではないかとも書いている。

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