希少スッポンが命拾い 食堂店主の機転で生息地に帰る

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

カンボジア北部の町、クラチェの人気レストランでは、客のリクエストがあれば、スッポン料理を出していた。

2018年末、地元の漁師が「メコン川で生け捕りにしたので買ってほしい」と、レストランに持ち込まれたスッポンが、いつものものと違うことに店主は気付く。

まず、体重は17キロ近くと大きい。頭の幅は広く、口先の近くに両目があるところはカエルのようだ。ひょっとして「絶滅危惧種ではないか」と思った店主は、このスッポンを75ドル(約8000円)で買った。もちろん、料理するためではない。死なせないためだ。

店主の息子は、巨大なスッポンを、30キロ余り北のサンボーにあるメコン・カメ保護センターに移送。センターを管理するブラン・シナル氏は、ひと目見て、運ばれてきたスッポンが希少種「マルスッポン」だと分かった。

カンボジアでは極めて希少な種で、1メートル以上の大きさになることもあり、100年以上生きるものもいる。しかもこのスッポンは、繁殖年齢に達したメスだということもわかった。この個体を失ったら、悲劇的だったことだろう。

スッポンは保護センターで3カ月に世話されたあと、メコン川に浮かぶカオー・トロング島の手つかずの浜に放たれた。スッポンを川に帰す日には、地元の当局者、村人、学生たちなど、たくさんの人が集まった。

2人の仏僧が祈りを唱えてから、スッポンが地面に置かれた。スッポンは、本能的に隠れようとして砂を掘り始めた。そこに放っておくのはよくないだろうと、スッポンは再度持ち上げられて水中に放された。泳いで岸から離れていくと、学生たちが拍手を送った。

「特別な機会でした」と、シナル氏は後に語った。「親となる(マルスッポンの)個体を野生にかえしたのは初めてです。とてもいい兆しです」

「カエル顔のスッポン」とも呼ばれるマルスッポンは、西はバングラデシュから東はフィリピンまで広い地域で見られるが、カンボジア北部では、メコン川に沿った長さ50キロ弱の範囲にしかいない。

かつては豊富にいたが、数十年にわたって卵が食用目的で乱獲されたため、個体数が激減。完全にいなくなったと考えられるまでになった。ちなみに、マルスッポンがカンボジアでようやく再発見されたのは2007年のことだ。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年5月7日付記事を再構成]

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