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カリスマの直言

令和の投資 数値で測れぬ価値観が前面に(澤上篤人) さわかみ投信会長

日経マネー

2019/5/27

草刈 物事を理解したり改善したりするには、どうしてもデータ化やモデル化は欠かせません。ですが、そこから得られる知見は、確率的に確からしいという傾向だけ。データ分析を重ねても、何が起きるかは誰にも分からない。なのに、データ分析の結果に従うことが正義、という風潮はありますよね。

草刈貴弘氏(左、撮影:竹井俊晴)

澤上 そうなのよ。ビッグデータとかで押しまくられると、「そういうものかな」と思わせられてしまう。思考停止とまでは言わないけど、思慮は浅くなる。我々の長期投資のような企業を応援するという行為は、単に儲かればいいという無機質な価値観では実践できない。個々の企業が好きか嫌いか、心底から応援したいかどうか、数値では測れないアナログ的な価値観が、いつでも前面に出てくる。

草刈 投資先を数字だけで選んでもよいのですが、今の数字が良いところに投資するのは誰でもできるし、既にそれなりに評価されていて割高かもしれない。それなら、これから良くなるものを買う方が、成長過程を楽しめるし、結果が出ればなおうれしい。完成品や最新モデルではなく、自分になじませて価値を高めていく、ビンテージ物を探すという感覚でしょうか。そういえば、ウォール街でトレーディングにどっぷり漬かっていた人が、早くに引退してワイナリーを始めた、なんていう話も耳にします。

■安らぎを覚える価値観にシフト

澤上 そうだね、ここらあたりで「より人間っぽい」「情のある生き方」といった価値観へのシフトを社会全体で意識していいんじゃないかな。ちょっと、綺麗事を並べ過ぎている。そう言われるかもしれないが、「さわかみファンド」の実績を見てもらいたい。企業を応援するんだと青臭いことを言いながら、メガファンドの中でもトップクラスの成績を残しているではないか。それも、先物やオプション、デリバティブ(金融派生商品)など一切使わず、現物株の運用だけでだよ。

草刈 やはり良い運用は良い投資家や顧客があってこそ、それを地でいっていますね。金融機関への投資や、無理な営業といった「やらないこと」を決めてやってきたのに、19余年続き、しかも、これだけの資産規模があるのは本当にありがたいことです。でもここから先が勝負どころですね。景気の雲行きが少々怪しくなっているのに、先進国の中央銀行には打つ手がなくなってきている。

澤上 フフフフ、いつも言っているように、さわかみファンドが一気に抜き出てくるよ。本格的な長期投資の出番到来だからね。

草刈 先日、違う業界の方と集まる機会があり、その席で「モノづくりの機械などは、どうしてもデジタル化が進むし、それこそが万能だ」という話になりました。確かにモノづくりの機械はデジタルで動きますが、実は半導体製造装置のような最先端の機械でも、キサゲ加工ができなければ、正確に部品が組みつけられないそうです。キサゲとは金属表面を手作業で平らにする精密加工のことで、伝統の職人技能とか。デジタル化が進んでも結局、匠の技は欠かせない。

マニュアル至上主義のサービス分野でも、機転やフォローなど、昔からの価値観にのっとったワザが必要な状況も起こるでしょう。

「デジタル万能論」は新技術に対する恐怖感の裏返しだったのだと思いますが、それは考え過ぎだろうという話になり、その席でも安心感が生まれました。

多少の揺らぎの中でも、変わらない本質的な価値観というものがあります。長期投資はまさにそれなんだなと思いますね。

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2019年6月号の記事を再構成]

これまでの「カリスマの直言」の記事はこちらからご覧ください。

日経マネー 2019年 6月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP
価格 : 750円 (税込み)


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