バーチャルジャニーズ アニメファン引き付け絶好調
この1年で一気に広がりを見せているジャニーズ事務所のネット事業。そのなかで2019年2月からSHOWROOMと共同で始めたバーチャルアイドルの動画配信「バーチャルジャニーズプロジェクト」が盛り上がっている。
ジャニーズ初のバーチャルアイドルとして活動しているのは、海堂飛鳥(かいどうあすか)と苺谷星空(いちごやかなた)の2人。声は関西ジャニーズJr.の藤原丈一郎と大橋和也が担当し、ほぼ毎日夜に生配信している。SHOWROOMによると、平均視聴者数は1日約3万人。これは男性VTuberの中では桁違いの数だ。これまでの最多は約10万人で(初日の海堂)、男性バーチャルキャラは一番人気でも1日せいぜい数千人くらいと言われれば、いかにすごい数字かが分かる。
ここまでの人気を得られているのは、ジャニーズとアニメ双方のファンにうまくハマった結果と言える。とはいえ、結局見ている人のほとんどがジャニーズファンなんだろう…と思うかもしれないが、フォロワー分析をすると、実は6:4でアニメファンが若干上回っているのだそうだ。
ファンの面白がり方がカギ
SHOWROOM代表の前田裕二氏は、「アニメファンの皆様に喜んでいただける確信はあった」と説明する。
「若者に絶大な人気のHoneyWorksさんにシナリオとキャラクター設定を担当してもらったので、一定数のアニメファンに見ていただける算段はあった。加えて、キャラクター創出でおざなりになりがちな"実在感"や"ライブ感"についても、現実味のあるエピソードを細かく入れ込むことで醸成している。アニメファンの皆様には新感覚のライブアニメとして楽しんでいただけているのかなと思います」(前田氏)
むしろ不安視していたのはジャニーズファンの反応だったという。
「アニメファンの多くは関西ジャニーズJr.の性格をまだ知らないので、先入観なく飛鳥と星空というキャラクターの個性を受け入れられる。でもジャニーズファンはまず何よりも、"中の人"のファン。だから始まる前は、『せっかく生でそこにいるのに顔が見えないなんて…』と、ネガティブな見方もありました。正直、期待値はそこまで大きくなかったと思う。でも始まってみたら、中の人とはまた違ったキャラクターや世界観が存在していて、ハマって見続けてくださる方も多いようです」(前田氏)
それもそのはず、キャラを通じてとはいえ毎晩生で本人と直接コミュニケーションが取れるのだから無理もない。
視聴者数もさることながら、エンゲージメント率(送り手の投稿やアクションにユーザーが反応する割合)が極めて高いのも特徴。「コメントの数は僕の感覚で言うと、これまでのトップクラスの2倍くらい。配信中、コメントの勢いが収まらないのも他ではあまり見たことがない」(前田氏)。継続視聴を示す「リターンレート」の比率も非常に高く、最近では"中の人"に興味を持ち始めるアニメファンも増えているそうだ。
ポップカルチャーに詳しい社会学者の太田省一氏は、「バーチャルジャニーズがウケるのは、ジャニーズの歴史から見ても必然」と言う。「(事務所社長の)ジャニー喜多川さんが作ってきた舞台の世界に立っているのは、夢の国の王子様。そんな虚構の存在を今の時代にアップデートした形がバーチャルアイドルだと思う。そこにテクノロジーの進化でコミュニケーションもできるという要素が加わった。運営側を設定の中に入れているのも今っぽい」(太田氏)。
"運営側"とは、飛鳥と星空のマネジャーである高校生の「前田くん」のことで、彼が様々なミッションを出している。
今後の成否については「ファンの面白がり方がカギ」と太田氏。「バーチャルキャラは架空の存在ゆえ、ファンの面白がり方でキャラが成長したり、変わる側面がある。なので運営側とファンがどんなキャッチボールをするか」(太田氏)。
参加のための個人登録をはじめ、2人に届けるギフトアイテムはすべて無料。「少なくとも2カ月に一度くらいのペースで大きな企画やイベントごとを仕掛けていきたい」と前田氏。エンゲージメントが高いことから、ゆくゆくは企業とタイアップするギフトアイテムなども考えているようだ。
アイドルとしてオリジナル曲発表を目指しているという飛鳥と星空。その初ステージがどんな形になるのか、実に楽しみだ。
(ライター 木村尚恵)
[日経エンタテインメント! 2019年5月号の記事を再構成]
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