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食のリーダー

AIができぬ料理人の技とは 「料理界の東大」トップ 辻調理師専門学校校長 辻芳樹氏(下)

2019/5/25

「おいしい料理を作ることが技術ではない、いかに無駄を出さないかだ」と辻芳樹校長

――給食会社、グリーンハウスの創業者である故田沼文蔵さんから以前、「レストランで出すカレーと、給食で出すカレーは違う。うちでカレーを作るときは、大鍋に水をホースから入れるのだから」というお話を聞いたことがあります。

それは配合の問題です。作り手のこだわりとか。だから給食や機内食がおいしくなくなる。ただ、レストランと同じようにレシピや調理工程にこだわっていたら、給食会社では経営が成り立たなくなります。だから、どこで手を抜くかです。先代校長は「だます」と言っていましたが、私は品よく「手を抜く」と言っています(笑)。

今風に言えば、いかに無駄を出さないかということですね。おいしい料理を作ることが技術ではないと、私はずっと言い続けてきました。食材のマネジメントが肝心なのです。それがわからない料理人が多過ぎる。

――最近、特に若い女性を中心に、「インスタ映え」という言葉が流行っています。「わあ、きれい」とか「わあ、カワイイ」とすぐに携帯電話で写真を撮り、SNS(交流サイト)で拡散する。このような時代背景の中で、料理人がより見栄え重視の料理、奇をてらった盛り付けに走るという心配はありませんか。

料理というのは、しょせん模倣の世界です。今は、そのまねすべき情報がネット上にタダであふれかえっています。これは素晴らしいことです。芸術的進化のスピードには目を見張るものがあります。技術者、料理人としてのこだわりさえ持っていれば、それを模倣して自分のオリジナリティーを加え、さらに変化させることは問題ないと思います。伝統、伝統と言って、昔の価値観に固執していると、文化の進展を止めることになりかねない。

――日本人の味覚というのは変化してきているのでしょうか。

私は味覚というのは地域性や家庭や育ちなど環境が9割、メーカーのマーケティング戦略が1割あって決まっていくと考えています。食材も昔と今では違っているから味覚もその中で変化する。味覚が汚染されるということもあります。今、日本では味覚障害の子供が増えているのも問題ですね。

――「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、その核となる「うま味」に「ミシュラン」の三つ星クラスの料理人も関心を示しているようです。

私は料理をよく建築に例えるのですが、木造建築物、鉄筋コンクリート造り、石積みの建物などとありますが、和食のうま味を西洋料理などに取り入れようとすると、木造建築に鉄筋コンクリートの建物を継ごうとしているようなもので、無理が生じる。取り入れるとしたら、設計図から考え直さないといけないのです。欧米や世界中の料理人で成功している人はいない。今のところは、「うま味」は「うま味」として売っていく方が良いと思っています。

辻芳樹(つじ・よしき)
1964年大阪府生まれ。93年 学校法人辻料理学館理事長、辻調理師専門学校校長に就任。2000年 主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)にて首脳晩餐会料理監修。04年 内閣の知的財産戦略本部コンテンツ専門調査委員に就任。10年米国で開催された国際料理会議「Worlds of Flavor International Conference & Festival(WOF)」で組織委員を務め、「日本料理における多様性~伝統と革新~」について基調講演を行う。18年フランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。主な著書に『美食のテクノロジー』(文藝春秋)、『和食の知られざる世界』(新潮社)、『すごい!日本の食の底力~新しい料理人像を訪ねて~』(光文社)など

(ジャーナリスト 加藤秀雄)


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