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AIができぬ料理人の技とは 「料理界の東大」トップ

辻調理師専門学校校長 辻芳樹氏(下)

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NIKKEI STYLE

天ぷらやとんかつは家庭で揚げない、おでんはコンビニエンスストアで買うものといった「食の外部化」が進み、工場や店舗レベルでの食品の生産は増える一方だ。「ガストロノミー(美食)」の道を探求して来た辻調理師専門学校グループでも、今後はその分野で卒業生が活躍していく可能性を否定しない。ただ、辻芳樹校長は「単なる工場生産であれば、AI(人工知能)にはかなわないが、そこに人間臭さを入れることが料理人の役割」と強調する。(前回の記事は、「世界に人材 「料理界の東大」トップが描く未来の食」)

――辻先生には、ちょっとお聞きしにくいのですが、社会的に「食の簡便化」は進む一方といわれています。米国フードマーケティング学会の定義とされていますが、「Ready to Prepare(食材や調理器具の準備ができている)」から「Ready to Cook(調理にすぐ取り掛かれる)」→「Ready to Heat(温めれば食べられる)」→「Ready to Eat(すぐに食べられる)」という流れは、不可逆的に進むと。この中で、家庭で調理することが減り、その分を工場や外部で生産した食品に依存する率が高まっていくと思われますが、この分野に御校の卒業生を送り込むということは考えられますか。

それは大いにあります。AIの技術開発が最も貢献してくると思うのですが、いずれにしても人間がプログラムを開発するわけで、理論的なことが分かっていないとできない。それを教えるのが我々の役割だと考えています。

簡便化の流れはどうしようもなく進んでいて、フォン・ド・ボー(子牛の肉や骨からとっただし)も今や大半が外注です。フランスにはクネルという、魚のすり身で作ったはんぺんのような食材があるのですが、8割は工場生産です。クネルの専門店をうたっていても下請けに出している。

――御校の卒業生というと、包丁を握って、食材を切っているというイメージがあるのですが。

うちでは反復作業の時間を、とにかく減らすようにしています。これは学校でなくともできるし、どんなに不器用な人でも現場に出て2年、3年とやればできるようになる。即戦力というのは、どこのお店に入っても、解釈がわかる、理解力があるということだと思います。これは現場では学べません。だから学校で教えなくてはいけない。

もちろん学校では繰り返し調理をさせますが、これは反復作業をさせているのではなく、あくまでも実践練習をしているだけです。温度帯や食材を見て、どこでどのように変化していくかの理論を教える。食品企業で商品開発などに携われば、どの工程で味覚変化が起きたかを理論的に理解できる。

――料理の理論が分かった人が商品開発をするといいということですね。

将棋の羽生善治九段がAIと対局した時に、AIが大正時代後期の手を指してきたそうです。それを受けて羽生さんは「大正後期の手なら、私はもっと面白い手を打つ、それが人間臭さなのです」と言っていました。これは料理にも通ずるところがある。

勝ち負けとかいう問題ではなくて、人間臭さが残るかですね。食品開発の現場で、生産性を重視するとAIには勝てない。しかし、ガストロノミーというか、文化的背景を持って、数時間を歓談しながら食事をするという、最も人間的な場面では、やはり人間臭さが残ったほうが面白いわけです。

――御校の卒業生が商品開発にかかわると、家庭の食卓がもっと盛り上がるような料理、商品が出てくるかもしれない。

すごくあり得ますね。日本人は他国の文化などを、日本的にアレンジしていくことが得意です。お菓子の分野でも、ティラミスやカヌレを日本流にアレンジして、本当においしいものに作り上げてきた。世界の料理、食品の中には、そうすることができるネタがまだまだたくさんあります。料理人、技術者が食品開発にかかわることで、もっと面白いものが出てくる。最も可能性が高いのが、コンビニで売られている商品ではないでしょうか。

――2001年、米ニューヨーク「9.11テロ」のとき、米国を代表する料理人であるデーヴィッド・ブーレイ氏が、グラウンド・ゼロに仮設レストランを設営し、救出された人、救助に当たっている作業員に、約4週間で100万食を超える食事提供したと、先生の書かれた本で知って驚きました。いわゆる高級レストランで、このような大量調理をすることは可能なのでしょうか。

唯一違うのは、衛生管理面と、大量調理に必要な機材を使えるかということですね。おいしいものをたくさん作るという点では、大量調理の場合、そのプロセスは簡素化されます。ただし、味覚的に言うと、プロセスが多ければおいしくなるということでもありません。食材や調味料の配合、レシピの問題で、これにこだわって作れば、電子レンジでチンしても、おいしいものは絶対にできるはずです。大量に煮込んだ方がおいしくなる料理はいくらでもあります。

――給食会社、グリーンハウスの創業者である故田沼文蔵さんから以前、「レストランで出すカレーと、給食で出すカレーは違う。うちでカレーを作るときは、大鍋に水をホースから入れるのだから」というお話を聞いたことがあります。

それは配合の問題です。作り手のこだわりとか。だから給食や機内食がおいしくなくなる。ただ、レストランと同じようにレシピや調理工程にこだわっていたら、給食会社では経営が成り立たなくなります。だから、どこで手を抜くかです。先代校長は「だます」と言っていましたが、私は品よく「手を抜く」と言っています(笑)。

今風に言えば、いかに無駄を出さないかということですね。おいしい料理を作ることが技術ではないと、私はずっと言い続けてきました。食材のマネジメントが肝心なのです。それがわからない料理人が多過ぎる。

――最近、特に若い女性を中心に、「インスタ映え」という言葉が流行っています。「わあ、きれい」とか「わあ、カワイイ」とすぐに携帯電話で写真を撮り、SNS(交流サイト)で拡散する。このような時代背景の中で、料理人がより見栄え重視の料理、奇をてらった盛り付けに走るという心配はありませんか。

料理というのは、しょせん模倣の世界です。今は、そのまねすべき情報がネット上にタダであふれかえっています。これは素晴らしいことです。芸術的進化のスピードには目を見張るものがあります。技術者、料理人としてのこだわりさえ持っていれば、それを模倣して自分のオリジナリティーを加え、さらに変化させることは問題ないと思います。伝統、伝統と言って、昔の価値観に固執していると、文化の進展を止めることになりかねない。

――日本人の味覚というのは変化してきているのでしょうか。

私は味覚というのは地域性や家庭や育ちなど環境が9割、メーカーのマーケティング戦略が1割あって決まっていくと考えています。食材も昔と今では違っているから味覚もその中で変化する。味覚が汚染されるということもあります。今、日本では味覚障害の子供が増えているのも問題ですね。

――「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、その核となる「うま味」に「ミシュラン」の三つ星クラスの料理人も関心を示しているようです。

私は料理をよく建築に例えるのですが、木造建築物、鉄筋コンクリート造り、石積みの建物などとありますが、和食のうま味を西洋料理などに取り入れようとすると、木造建築に鉄筋コンクリートの建物を継ごうとしているようなもので、無理が生じる。取り入れるとしたら、設計図から考え直さないといけないのです。欧米や世界中の料理人で成功している人はいない。今のところは、「うま味」は「うま味」として売っていく方が良いと思っています。

辻芳樹(つじ・よしき)
1964年大阪府生まれ。93年 学校法人辻料理学館理事長、辻調理師専門学校校長に就任。2000年 主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)にて首脳晩餐会料理監修。04年 内閣の知的財産戦略本部コンテンツ専門調査委員に就任。10年米国で開催された国際料理会議「Worlds of Flavor International Conference & Festival(WOF)」で組織委員を務め、「日本料理における多様性~伝統と革新~」について基調講演を行う。18年フランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。主な著書に『美食のテクノロジー』(文藝春秋)、『和食の知られざる世界』(新潮社)、『すごい!日本の食の底力~新しい料理人像を訪ねて~』(光文社)など

(ジャーナリスト 加藤秀雄)

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