ブック

ブックコラム

米中摩擦「どういう世界を目指すのか」 丹羽宇一郎氏

2019/5/16

不安定化する世界の中で
「平和と自由貿易」を
守り抜く努力が必要

――2月に上梓された『日本をどのような国にするか』では、様々なデータや専門家の見解を引いて日本が直面する課題を明らかにしながら、日本社会の現状に警鐘を鳴らしています。

国際社会における日本をデータで見てみると、日本の立ち位置がどんどん低くなっていることに驚きます。例えば、世界経済フォーラムの「世界競争力レポート」によると、2017年の日本の国際競争力は137カ国中9位。14年より3つ順位を下げました。経済協力開発機構(OECD)によると、日本の教育費の公的支出のGDP比(15年)は先進諸国34カ国の中で最低です。食料自給率(17年度、カロリーベース)は38%と、やはり先進国で最低水準です。地球温暖化対策も、日本はかなり遅れているというデータがあります。

私が懸念しているのは、日本の各分野のリーダーたちがこうした厳しい現実を直視し、謙虚に向き合い、知恵を絞って課題を解決しようとする情熱を失っているのではないか、ということです。政治も経済も目先の利益や損得に追われ、日本をどうしていきたいのかという長期的なビジョンを描く気力を失っているように思えます。

――著書では国の経済財政政策についても疑問を投げ掛けています。

アベノミクスで戦後最長の景気回復だ、株価も上がったといわれますが、決して楽観できる状況ではないでしょう。国の借金はGDP比200%超で世界最悪の水準です。株式市場では日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が巨額の株やETFを買って何とか株価を支え、国債もマーケットで売買が成立しにくくなるほど日銀が大量に買い入れています。こうした政府・日銀の経済政策は「出口なき戦略」のように思えますが、正面から議論されることはほとんどありません。

――戦後70年が過ぎ、第2次大戦の記憶が失われていく中で、平和をどう維持していくのかも大きな課題だと指摘されています。

混迷する時代の中で、日本も世界も少しずつ戦争に近づいています。戦争を経験した人が減り、その本当の怖さを知らない世代が主要国の指導的な立場にあることも大きなリスクといえます。この不安定さを増す世界の中で日本がやるべきことは、「平和と自由貿易」を守ることに尽きると思います。

食料自給率もエネルギー自給率も低い日本は、その供給を断たれればたちまち立ち行かなくなります。日本は自由貿易なくしてはやっていけないのです。だからこそ率先して、世界の平和を守らなくてはならない。これはやりたいかどうかの問題ではなく、日本の国是です。そして平和は、努力なくして維持することはできません。

「戦争に近づかない」という日本の国是の後ろ盾は、言うまでもなく平和憲法です。戦後70年、専守防衛に徹し、他国の人を殺さなかったことは素晴らしい価値であり、世界からも評価されている。それを守り通さなくてはならない。戦争に近づくような改憲は絶対にしてはいけないと強く思います。

――もう一つの国是と位置付ける自由貿易については、どのような取り組みが重要になりますか?

技術力を磨くことです。今世界では優秀な技術者の争奪戦が起きている。中国は多額の開発資金や報酬をもって、世界中から優秀な技術者を集めています。日本は財政難から十分な科学技術予算がないことに加え、省庁ごとに予算を割り振る縦割りの研究体制が本来の技術開発の妨げになっています。

各省庁が決めた研究テーマに予算が付く「ポジティブリスト方式」も良くない。欧米のように、例えば戦争関連などの特定テーマ以外であればどんな研究をしてもいい「ネガティブリスト方式」の方が、いい結果につながると思います。

ブック 新着記事

ALL CHANNEL