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まるでイルカかカモノハシ? 常識覆すカニの化石発見

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/5/20

Callichimaeraが発見されたのは、まったくの偶然だった。2005年12月、ルケ氏は、研究チームの大学生数人と、コロンビアの首都ボゴタの北東にある町ペスカの地質図の作成を手伝っていた。ある日、作業に疲れ果て、友人と岩に座って休んでいたルケ氏は、好奇心から岩を砕き始めた。すると、裂け目が1つ開き、奇妙な動物の化石があらわになった。「最高のクリスマスプレゼントのようでした」と同氏は振り返る。

ルケ氏は当初、無脊椎動物の化石を研究しようとは計画していなかった。もともと、恐竜や古代の哺乳類の研究を志して古生物学の道に進んだのだ。しかし6カ月後、近くの別の岩を掘っていた時、同じ生物の化石をまた発見した。化石を見つければ見つけるほど、好奇心が高まっていった。ルケ氏は、化石の写真を世界中の専門家に送り始めた。その中には、論文の共著者に名を連ねる、メキシコ国立自治大学のフランシスコ・ベガ氏や米ケント州立大学のロドニー・フェルドマン氏が含まれていた。

ルケ氏は最初、この化石はアサヒガニの仲間だと考えていた。しかし、化石を詳しく調べるほど、現代の「カニらしさ」を構成するチェックリストに反することがわかっていった。

今回の結果は、泳ぐための脚や大きな爪といった、カニの体のすぐれた構造が、9000万年前までに確立されていたことを示している。またそうした特徴は、時間をかけて増えていったというより、一部のグループがそれぞれ独立して失うように進化したことが示唆される。

驚くほど多様な体形を有する過去と現在のカニ。今回発見された謎の多いCallichimaera perplexaは中央(ILLUSTRATION BY JAVIER LUQUE, YALE UNIVERSITY)

■カニの大規模な進化は2度

Callichimaeraの発見により、ウルフ氏とブラッケン=グリソム氏の研究は当然進むだろう。現在でさえ、遺伝子データと化石を組み合わせることで、十脚目が形作られた古代からの過程は明らかになりつつある。

十脚目は、独立した系統として枝分かれしてから1億年ほどの間、水生生態系の脇役に過ぎなかった。当時の主役は三葉虫やウミサソリなどだった。しかし、約2億5200万年前、現在のシベリアで大規模な火山の噴火が起き、大量の温室効果ガスが大気中に放出された。その結果、海中の酸素濃度が急激に低下した。

これにより、地球の生物種のおよそ95%が死に絶えた。ペルム紀末の大量絶滅である。しかし、十脚目を含むこの大災害の生き残りは、その直後から大繁栄を遂げることになる。その後の数百万年で、十脚目の系統は急速に多様化した。

カニの2度目の大規模な多様化が起きたのは、ジュラ紀末期である1億4500万年前ごろだ。ウルフ氏の研究チームは、造礁サンゴが出現し始めたためではないかと推測している。初めてサンゴ礁が形成され、さまざまな生物のすみかとなったのかもしれない。

ルケ氏とウルフ氏の研究が発表された今、両氏は協力して、すべての甲殻類を対象としたより大きな系統樹の構築を目指している。これは、サンゴ礁多様性仮説のさらなる試金石となるだろう。

その間に、さらに奇妙な生物の化石が必ず見つかり、系統樹にますます多くの枝が加わることになるだろう、と論文の著者らは述べている。

「21世紀になった今日でも、知見や情報が一切ない(化石)生物がいまだに発見されることに、本当にわくわくします」とルケ氏は語る。「どれだけ多くの宝が、どれだけ多くの遥かなる太古についての貴重な情報が、発見されるのを待って眠っているのでしょうか」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年4月27日付]

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