自治体「幸福度」の不都合な真実 実感と不一致はなぜ

行政に幸福度をいち早く取り入れた東京都荒川区は、住民の幸せに足りないところは何かをチェックすることに重きを置いています。幸福度の研究に詳しい大正大学の小峰隆夫教授は「健康や安心安全など生活に身近な分野について、住民の不満を把握し、政策の改善につなげるのが幸福度の使い方として望ましい」と話しています。

小峰隆夫・大正大学教授「ランキング、生産的でない」

「幸福度」について研究している大正大学の小峰隆夫教授に、政策への幸福度の生かし方を聞きました。

――幸福度のランキング付けには批判的ですね。

小峰隆夫・大正大教授

「客観的な指標をもとにしたランキングでは、1992年から当時の経済企画庁が『新国民生活指標』(豊かさ指標)を作成し、都道府県別の順位を公表した。ただ1位福井県、最下位埼玉県という状況が続き、当時の土屋義彦・埼玉県知事が批判するなど反発も起きた。こうしたこともあって結局、都道府県ランキングの公表は取りやめとなった」

「ランキング付けには原理的な問題がある。1人当たりの指標にすると、人口が流出する地域は1人当たりの居住面積などが広くなり有利に働く。逆に人口増の地域は不利になる。しかし人口が増えるのは、そこに住みたい人が多いからだ。経済学で言う『足による投票』という考え方で、社会移動の出入りをみればその地域の魅力がわかる」

「福井県は確かに自然が豊かで、家は広い。きちんとした仕事があれば、福井県のような地域で暮らすのは幸せだ。しかし、しっかりした仕事がたくさんあるわけではないので、暮らしにくい人は出ていってしまう。人手不足で地方にも働く場はあるが、働く環境という面で考えると、東京の方が将来のキャリアアップや転職する場合の選択肢も多い。ランキングの順位がよいのは暮らしにくい人が出て行った後の数字だからで、ランキングを競うのはあまり生産的ではない」

――主観的な指標を政策に活用する自治体もあります。

「住民に幸せかどうか直接聞く手法で有名なのが東京都荒川区だ。荒川区は毎年、区民の意向を調査し、健康分野や安心安全分野などの幸福度をモニターしている。それをどの分野を改善したらよいかを判断する際の素材にしている。ただこれは身近な生活にかかわる政策を対象にすべきだ。地域産業で何を振興したらよいか、観光でどんなところに力を入れたらよいかなどは、アンケート調査しても意味はない。行政組織として戦略を立てて行く必要がある」

――国の政策に幸福度を生かす試みは踊り場にあるようです。

「国の幸福度研究は2009年の鳩山内閣で予算が付いてから進んだ。有識者で構成する研究会も設置した。幸福かどうかを聞き、その人の属性、所得や健康、人間関係などからどういう人が幸せと考えているかなどについて分析した。その結果、所得は高い方が幸せで、暮らし向きが楽だと考えている人が幸福度が高い。幸福度が決定的に落ちるのは仕事がなくなった人だ」

「(バブル経済が終わった後の)平成の時代は、所得が伸びない時代だった。今は人手不足なのに賃金が伸びない。やはり所得が伸びないと幸福になれないと思う傾向が強いのではないか」

(編集委員 斉藤徹弥)