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欧州は5分遅刻が礼儀? 体験的社交術の裏メッセージ 『大使夫人にこっそり聞いた失敗しないヨーロッパ式マナーブック』

2019/5/21

今春に一時帰国した六草いちかさん。「マナーの延長にあるのは平和で、戦いじゃない」

マナーを教える本なのに、先生が生徒に語って聞かせる筆致ではない。ドイツ在住31年の作家、六草いちかさん(56)の近著『大使夫人にこっそり聞いた失敗しないヨーロッパ式マナーブック』(大修館書店)。むしろフィールドワークを重ねる生徒のような視点が、欧州の社交を読者に追体験させてくれる。森鴎外研究で知られる著者が、なぜ「マナー」なのか。今春の一時帰国の際に聞いた。

きっかけは5年ほど前のこと。在ベルリン日本大使館の晩さん会後、中根猛大使(当時)の和子夫人から日本人招待客への伝言を託された。開始30分前の到着が社交の場ではマナー違反にあたるという今後のためのアドバイス。しかも理想は「約束の5分後」ということだった。

『大使夫人にこっそり聞いた失敗しないヨーロッパ式マナーブック』(大修館書店)

会場が招待主の自宅なら準備作業を妨げず、レストランなら客が主人を出迎える事態を避けるための配慮だ。「私は時間ぴったりに訪ねなきゃいけないと思っていたら、それも間違いだった。(その時点で)私も30年近くドイツに住んでいたのに」。それ以来、大使夫人との対話や、家族や友人との外食などを通じた積極的な取材で社交のポイントを整理した。

その体験的社交術は、寒い日に訪問先でコートを脱ぐ適切なタイミングから、雪の日にハイヒール姿をみせるための裏ワザ、ハンカチを出すのが間に合わないときのくしゃみの方法にまで及ぶ。落ちにくさを売りにした口紅の登場で、グラスを汚さないための「リップオフ」がより大切になっていることも、自身の失敗談を交えて紹介している。

「生産性」や「効率化」が求められ、外出せずともネットでつながれる時代。ときには虚礼とみられ、とかく面倒なものとして敬遠されがちなマナーに、どうして注目するのか。「マナーの延長にあるのは平和で、戦いじゃない。相手をがっかりさせず、お互いに心地よく過ごすための習慣がマナーだから」。そして「人間に『感情』がある限り社会からマナーはなくならない」と言い切る。

マナーを義務や建前ととらえる見方には異を唱える。「マナーは強制されるものではない。ドイツでは成人すると人前でマナー違反を指摘されることはなくなる。相手に恥をかかせることもマナー違反になるから」。それでも「テーブルマナーを認識すれば、料理を一番いい状態で食べることができる。マナーに反して食事中に足を組めば、姿勢も崩れて(感覚は)目と舌に集中できなくなる」と、実際的な効用も説く。

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