迷い込みたい世界の図書館 絢爛豪華さに絶句
今や本は電子で読む時代だ。デジタルの時代になっても、紙に記された文字、書籍、それらを収めた図書館に魅力を感じるのはなぜだろうか? 建造物の内部を撮影してきたマッシモ・リストリ氏の写真で、読書空間としても建築物としても魅力的な世界の図書館を紹介しよう。
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本好きというのは、ひょっとしたら変わり者の集団かもしれない。この世界を脱出して別の世界に浸り、一人きりで長い時間を過ごす。しかも、彼らが訪れる世界は多様で、人間の知識と同じくらい無限にあるのだ。そんな風変わりな人たちが集まる場所の一つ図書館も、そうした世界にふさわしく作られてきたようだ。
古代の聖職者にとって、図書館は神聖な知識の宝庫だった。初期の科学者たちが技術や医学を進歩させることができたのも、図書館のおかげだ。近代の公共図書館の出現には、市民社会の願いが表れている。つまり人々は、読みたい、知識を増やして学びたい、そして積極的に視野を広げたいと願っていたのだ。
もちろん、市民社会はたびたび脅かされてきた。図書館も例外ではない。戦争や火災で破壊された図書館としては古代都市アレクサンドリアの図書館が有名だが、プラハのストラホフ修道院図書館のような比較的知られていない例もある。この図書館は火災で損なわれ、その後も数世紀にわたり侵略や戦争に翻弄された。
そうしたことと関係がない図書館にも課題はある。古代の遺物である書物を、時間の経過による劣化、さらには害をもたらす者から守るという課題だ。ナポリのジロラミーニ図書館は2012年、犯罪集団によって組織的にコレクションを盗まれる被害に遭ったが、世界中の司書や愛書家たちが協力し、盗まれた蔵書の大部分を見事に元に戻すことができた。
文化遺産の保護を任務とする司書たちは陰の英雄であり、防衛の最前線といえる。しかしポルトガルの司書には、ちょっと変わった味方がいる。コウモリだ。コインブラのジョアニナ図書館や、マフラ国立宮殿図書館ではコウモリが飼われており、本好きの昆虫を寄せ付けないことに成功している。
本そのものの価値とは別に、図書館自体に畏敬や驚嘆を覚えることがしばしばある。アンリ・ラブルーストが設計し、近代図書館の先駆けとなったパリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館から、レム・コールハースの設計による現代の驚異、シアトル公共図書館まで、歴史に残る偉大な建築家たちが、図書館の設計を依頼されてきた。
ここでは、世界で最も目を引く美しい図書館の写真を集めた。中世前期に写本作りで有名だった聖エメラム宮殿の図書室や、旧貴族の個人コレクションが見られる図書館などは、自分だけの新しい世界を探求するきっかけになるのではないだろうか。
次ページでも、いつかは訪れ、そこで読み耽ってみたい、世界の図書館を18枚の写真で紹介したい。
(文 MELISSA MESKU、写真 MASSIMO LISTRI、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年5月2日付記事を再構成]
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