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高貴薫るブルガリア「バラの谷」 ローズオイルの故郷

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ナショナルジオグラフィック日本版

ヨーロッパ南東の国、ブルガリアに「バラの谷」と呼ばれる一帯がある。バルカン山脈の南に横たわる東西140キロほどの細長い渓谷で、毎年5月から6月にかけて咲き乱れるバラの花によって、谷はピンク色に染まる。写真を撮影したブルガリア出身のフォトジャーナリスト、ヤナ・パスコヴァ氏に「バラの谷」を紹介してもらおう。

◇  ◇  ◇

かつての共産主義体制下では、拳銃、銃弾といった武器製造でしか知られていなかった地域だが、現在はローズオイル(バラ油)の世界的な生産地として有名になった。ローズオイルは「金の液体」とも呼ばれ、わずか450グラムを製造するのに1440キロ以上ものバラを必要とする。その価値は3500~6000ドルにもなる。

食用にもなる香り高いバラの花は、今ではブルガリアが誇る国家的名産品となったが、経済的な問題や気候の不安もあり、その未来は不透明だ。

バラ油が採れる品種で、この谷で最も多く栽培されているのが、ピンクの花びらをつけるダマスクローズ(Rosa damascena Mill)である。正確な原産地はわかっていないが、シリアの首都ダマスカスから持ち込まれたという説が有力なほか、古代ペルシャ原産とする説もある。ブルガリアには17世紀にトルコの商人によって持ち込まれた。

バラの谷の中心地となっているのがカザンラクの町。ここでは毎年6月最初の週末にバラ祭りが開催される。伝統的なバラ摘みやバラの蒸留工程、民族舞踊、バラ入りのケーキや石鹸、アクセサリー、ワイン、ラキアと呼ばれる地元産果実酒が、訪れる人々を楽しませる。また、その年高校を卒業する生徒の中から「バラの女王」が選ばれ、パレードも行われる。

バラの収穫を祝うのは、その栽培が困難であるためだ。カザンラク郊外にあるブソフグラッド村の生産者ティホミル・タチェフさんとアレクサンドリーナ・アレクサンドロヴァさんは、1.8ヘクタールの土地でバラを育てているが、栽培期間が長いうえ作業は複雑で、費用もかさむ。まず、土の準備が整った秋に挿し木を行う。その後年間を通して根気強く肥料をやり、トラクターで作業し、乾燥した枝を切り落とし、害虫や雑草を除去する。そしてようやく、5月と6月の花摘みを迎える。

こうして収穫されたバラの花は、蒸留所に買い取られてバラ油に加工される。タチェフさんとアレクサンドロヴァさんは、バラの谷の他の生産者とともに大量のバラの花を道路にばらまき、蒸留所によるバラの買いたたきに抗議したことがある。世界的な化粧品ブランドや香水ブランドがこぞって買い付けるバラ油には高い値がつけられている一方で、原料となる花の価格は下落し、生産費や労働力を賄うのがやっとという状態である。

蒸留所は、毎年のようにバラ園が新しく生まれ、市場が飽和状態にあると主張しているが、生産者側は、蒸留者が陰で話し合って花の買い取り価格を下げているのではと疑っている。多くの地元住人は、政府が管理して最低買い取り価格を設定すべきだとしている。しかし、1989年に共産主義体制が崩壊して以来、ブルガリアの市場経済は政府ではなく需要と供給によって支配されている。

天候の問題もある。バラは、砂地で透水性が高く、粘土質でない土を好み、たっぷりの日光、暖冬、そして開花の時期には十分な湿気を必要とする。ブルガリアのバラの谷はバラ栽培に最適で、2本の川と周囲の山が、大気の急変から谷を守ってくれる。午前中は日当たりが良いが涼しく、午後には気温が上がり、時には雨も降る。そのおかげで、開花時期のバラは自己防衛反応として油を産出する。

しかし、気温が上がりすぎたり雨が少ないと開花が早まり、普段なら標高の違いによって、ゆっくりと順々に開花するところを、一斉に咲いてしまうことがある。花摘みの期間は通常3週間ほどだが、その期間が短くなると、生産者は対応に忙殺される。

ブルガリアの気象学と水文学国立研究所のアシスタント・エンジニア、クラスティナ・マルチェヴァ氏は、バラの谷の気候がわずかに変化しただけで、バラの生産に影響が出ると話す。「6月の気温は上昇傾向にあります。また、ここ15年間で5月の降雨量が増加しているものの、過去100年間のデータを見てみると、全体的な降雨量はわずかに減少し、気温が上昇していることがわかります」

2018年のバラ摘みの期間は丸々1週間分も短くなったと、タチェフさんとアレクサンドロヴァさんは言う。雨が少なく、気温が高いために、開花が早まったと考えている。「短期間で花摘みをしなければならないというのに、人手が足りませんでした。他の人もみな自分のバラを摘まなければなりませんから。そのため、夜遅くまで作業せざるを得ませんでした。早く摘まないと、バラ油が蒸発してしまいます」

生産者たちは、今後いつまでバラの生産を続けられるか不安視しているが、バラの谷、そしてブルガリア全体から国の象徴とも言えるバラが消えてしまうなど、想像できない。カザンラクの町だけを見ても、バラはいたるところに見られる。道行く人の服やアクセサリーにあしらわれ、博物館やホテルの名にもなっている。バラ摘み作業員の腕にはバラの入れ墨が彫り込まれ、街のマーケットにはバラのデコレーションケーキが売られている。そして家々の庭には、色とりどりのバラが咲き誇る。

「バラの栽培は繊細で難しく、大変な作業です」と、タチェフさんは言う。「農業は、空の下で行う実験だと思いませんか。私たちに開放されているが、完全に私たち任せではない。私の祖父は、自分で摘むまで自分のものではないと、よく言っていました。一回雹(ひょう)が降っただけで、全滅してしまうことだってあるんです」

◇  ◇  ◇

次ページでも、パスコヴァ氏の写真で、ブルガリアを象徴するバラと人々の関わりを紹介しよう。

(文・写真 Yana Paskova、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2018年8月8日付記事を再構成]

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