MET「ニーベルングの指環」 ジョルダンの指揮抜群日本で「ワルキューレ」のライブビューイング公開

――長いキャリアを通じて輝かしく、力強い声を保ってきた秘訣は何ですか?

「ワルキューレ」のジークリンデ役、エヴァ=マリア・ウェストブルック (C)Richard Termine (メトロポリタン歌劇場提供)

「ジークリンデとか、もう何回歌ったかはわかりません。つねに新人のつもりで取り組み『いつか完璧に歌ってみせよう』と思いつつ、決して満足はしません。アスリートのようなものですが、必ずリラックスの時間をつくります。ジークリンデは『西部の娘』(プッチーニ)のミニー、『ムツェンスクのマクベス夫人』(ショスタコーヴィチ)のカテリーナ・イズマイロヴァなどと並び、私にとって特別な役です。旅のようなもので、次第にその人物の世界に入り込み、“中毒症状”(アディクション)に至ります。舞台に立ち、偉大なプロダクション、素晴らしい指揮者や共演者に囲まれるうち、私は天国へと飛んでいけるのです。ただし歌い終えれば、自分の体にたえず問いかけ、一歩下がったところでの充電を欠かしません」

――ワーグナーを歌う際に重要なことは?

「言語と音楽をいかに一体にとらえ、色を出し、客席に伝えるかです。最近では演出家や評論家、さらには観客までもが台本の発音を極端に重視しますが、それぞれのキャラクターの感情表現は言葉と音楽が溶け合ったサウンドによって伝わるものですから、言葉だけ際立っていても、完全とはいえません。特にMETのように規模の大きい劇場では『語り』だけだと不十分、絶対にサウンドが必要です。ワーグナーはベルカントの代表的作曲家、ベッリーニのオペラを愛していました。美しい声の響きを究めたベッリーニの上演で、言葉だけが突出していたら、どうなりますか? ワーグナーも同じです」

――METで歌う意義、指揮者ジョルダンへの評価。

「ヨーロッパの劇場では時として、ひどいチームに出くわすこともありますが、METはつねに驚くほど完璧な劇場です。素晴らしいオーケストラと指揮者、理想のスタッフとともに、偉大な芸術としてのオペラを共同で再現する雰囲気に満ちあふれています。歌の重要性を一貫して守るのも、美点です。私のデビューに当たった『ワルキューレ』の指揮者、ファビオ・ルイージさんも素晴らしいアーティストでした。フィリップ・ジョルダンさんとは今回が2度目の共演になります。エネルギーにあふれ、たくさんのアイデアを持っている。本当の意味での共同作業が可能な、素晴らしいマエストロです」

――ありがとうございました。最後に日本のファンへ一言、お願いします。

「すべてに美しく、おいしい国です。あのファンタスティックな寿司、しゃぶしゃぶと再び出合うためにもぜひ、私をまた日本に呼んでください!」

(音楽ジャーナリスト 池田卓夫)

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