研究者や職人も「五輪出たい」 競技用具で技術力示す

国産カヌー「水走(MITSUHA)」のコンセプト艇と東洋大の望月修教授(埼玉県川越市)

東京五輪はアスリートにとっての祭典であるだけでなく、技術力でそのパフォーマンスを支える企業や専門家にとっても憧れの舞台である。「ものづくりニッポン」の本領を見せようと、東洋大は産学連携でカヌーを開発し、東京都内の中小企業チームはアーチェリーの量産に挑戦中だ。下町ボブスレーが果たせなかった「五輪出場」を夢見て奮闘している。

国産カヌー「世界を驚かせたい」

「日本独自のもの、日本人にしか打ち出せない着想で世界を驚かせたい」。東洋大で国産カヌーの研究開発責任者を務める望月修教授は、こう力を込める。2016年、大学が東京東信用金庫と結んだ産学連携の一環として、国産カヌー・スラロームの製作プロジェクトが動き出した。

望月教授の専門は、生体が持つ優れた機能を工学などに応用する「バイオミメティクス(生物模倣)」や流体力学。それでも「釣り用のカヌーに乗ったことはあるが、競技用なんて全然なかった」。まさに「知識ゼロ」からの挑戦だった。

競技用カヌーは強豪の東欧製が主流。関係者に話を聞くと、日本人には座席部分も含めてサイズが大きく、選手は自分で艇を改造しているとのことだった。「ならば、自分の体の一部のように操作できるものを作ろう」となった。「技術屋としてのプライドもある。従来のコピーはしない」と誓い、設計から学術的な観点を用いる新たな発想に基づくものづくりにこだわった。

直進性とゲートを素早く回る旋回性が求められるスラロームでは、「カワセミ」と「カモノハシ」のくちばしをヒントにした。「水走(みつは)」と名付けたカヌーは波の抵抗を減らすため船首はカワセミのくちばしのようにシャープに、船尾は水流の中で左右への動きがスムーズにいくようにカモノハシのくちばしのように平たい形状にした。複合的な性能を持たせたことが特徴だ。

「波に入るときは抵抗を減らす。流れに乗るときは抵抗を増やす。相反するものをいかに両立させるかが一番難しかった」。理工学部の窪田佳寛准教授と研究室内で模型を用いて水の流れや抵抗を検証。コンピューターで数値計算をしながら実際の形状に落とし込んでいった。

多摩川上流でテストする「水走」の試験艇=望月修教授提供

1艇製作するのに約2千万円の資金が必要。望月教授のチームによる設計を、自動車やレースカーの試作で実績豊富なテックラボ(東京・多摩市)が形にした。これまでコンセプト艇、実験艇、試験艇と改良を重ね、今年中に実戦艇を完成させる予定だ。すでに国内やオーストラリアでトップ選手や日本カヌー連盟の関係者に試乗してもらい、コンセプトは残しつつ微修正。試合で使用できる最終形に近づきつつある。

東京五輪の日本代表が決まるのは10月。現在試してもらっている選手が選出されれば、夢舞台での“出場”に大きく前進する。「そこまでが勝負。新しい風を吹かせたい」と望月教授。大学発の英知の結集がカヌー界に一石を投じ、世界を驚かせられるか。