街ネコがいる風景 世界各地で人々の生活映す
ネコときいて、街の中で見かけるネコを思い浮かべる人は多いだろう。チュール・モランディ氏とブルーノ・モランディ氏の夫妻は、世界の都市や風景を撮影してきた写真家だ。取材の中、ふとしたことから撮り始めた被写体が街ネコたちの親しみのある顔だった。人々の生活にとけ込む世界の街ネコたちの姿を写真で見ていこう。
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モロッコ、シャフシャウエンでは明るい青色の建物の上でくつろぎ、ギリシャでは遺跡を跳び回り、日本では興味津々で漁師を見つめ、捨てられた魚を盗むチャンスをうかがっている。モランディ夫妻はネコ好きで愛猫もいる。
夫妻は、仕事の旅先で出会ったネコたちに魅了された。「ネコの撮影と人の撮影は、私たちにとっては、ほとんど同じことです」とチュール氏は話す。「私たちは、街なかの日常生活の一瞬を写真に切り取るのが好きなのです」。夫妻はまず、ごく自然にふるまう人や動物のありのままの姿をとらえるようにしている。その後、人とは話をし、もしネコが許せばかわいがり、また撮影させてもらう。
すむ場所が違っても、ネコの習慣は世界のどこでも同じだとモランディ夫妻は気づいた。しかし、人と同じで、中には恥ずかしがり屋のネコもいる。「野生化した」ネコは、人を怖がったり、嫌がったりするのですぐにそれとわかる。一方、「街ネコ」「野良ネコ」「地域ネコ」は、人なつっこいことが多い。
「時には本当に恥ずかしがり屋のネコもいますが、日本で出会ったネコのほとんどは、まったく恥ずかしがり屋ではありませんでした」とチュール氏は話す。「ネコは、人が優しいことを知っているのです。おそらく、えさをくれる人たちとの付き合いで学んだのでしょう」
日本人は特にネコに優しく、ネコと漁師が「特別な関係」を築いているほどだとチュール氏は言う。ネコは幸運を運んでくると考えられ、ネコをまつる寺や神社もある。また日本には、ネコが観光の目玉のようになっている場所もあり、いわゆる「ネコ島」も10カ所ほどある。
街ネコについての人々の認識に大きな影響を与えているのは、文化や宗教、歴史、伝説だ。イスラム教では、預言者ムハンマドが、愛猫ムエザを膝に乗せて説教をしたと言われている。また、ムエザがローブの袖の上で眠っていた時、預言者ムハンマドはムエザを起こすのではなく、片袖を切ってしまったと伝えられる。「モロッコやトルコのように、大半のイスラム諸国でネコを特別扱いするのは、預言者ムハンマドがネコをとても愛していたからです」とチュール氏は説明する。
しかし、誰もが野良ネコを好きなわけではない。ほとんどの場所で、野生化したネコは侵略的な捕食者とみなされ、地域の野生動物に大きな被害が出る可能性があると自然保護活動家は懸念している。
ネコが環境全体に与える影響については様々な議論があるが、それでもネコは世界中で愛されている。ケニアの沖合に浮かぶラム島では、街ネコは文化史の一部だ。ギリシャでは、法律で保護されている。モランディ夫妻の写真に写っている人たちは、ネコをまったく気に留めていないか、積極的に撫でたり抱いたりしている。
チュール氏は語る。「ネコは、街の人たちの生活の一部なのです」
次ページでも、街の様々な場所に現れるネコたちの自由な姿を写真でお届けしよう。
(文 KRISTIN HUGO、写真 TUUL AND BRUNO MORANDI、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年1月2日付記事を再構成]
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