雑音から離れ心と向き合う茶道の魅力 森下典子さん書いた本・読んだ本(3)森下典子さん

薄茶の点前ができるようになったら、次は濃茶、懐石、炭点前…と、次々に覚えるべきことが出てくるのも茶道の面白さ。

「40年たってようやく、『この道のりは、自分で茶事ができるようになるための過程だった』と分かった。今まで自分が見てきたのは、茶道のほんの一部だったんです」。何十年と時を重ねないと、分からないことがある。それも茶道を通じて、森下さんが実感していることだ。

「映画の『日日是好日』で主人公の女性が、初めての稽古後に『こんなことを繰り返して意味はあるんですか?』と尋ねるんです。それに対して先生は、『あなたたちは、何でも頭で考える』と笑う。そのシーンの撮影を見たとき、無性に泣けてきたんですよね」

主人公と同じように感じていた20代の自分と、先生の立場で考えている60代の自分。その2人を同時に目の当たりにし、時の流れに感慨を覚えた。「人はみんな年を重ね、見える景色が変わってくる。それは決してネガティブなことではなく、面白いことだと思うんです」

読んだ本
中里恒子著『時雨の記』(文春文庫)
20年ぶりに再会した男女が繰り広げる切ない恋愛。「久しぶりに恋をした未亡人の主人公が、『自分は生きているんだ』という感覚を取り戻すところが素敵。大人の魅力をたたえた男性の描かれ方にも引かれます」


湯本香樹実著『夏の庭─The Friends』(新潮文庫)
少年たちと老人のひと夏の交流を描いた児童文学。「作中の『遠くの火事に照らされる夜の空のような色のぶどう』という一文が忘れられません。読む人それぞれが違う色を想像できる、素晴らしい表現ですよね」

(工藤花衣)

もりした・のりこ
1956年、神奈川県生まれ。日本女子大学文学部卒業。在学中から『週刊朝日』連載の人気コラム「デキゴトロジー」の取材記者として活動。以降、ルポライター、エッセイストとして活躍する。

[日経おとなのOFF2019年1月号の記事を再構成]

好日日記―季節のように生きる

著者 : 森下 典子
出版 : パルコ
価格 : 1,620円 (税込み)

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