平成を変えた女性管理職 元年入社の執行役員が対談
野村証券・鳥海氏×三菱ケミカル・華房氏
平成の30年間で女性の働き方は大きく変わった。就業者に占める女性の割合は4割を超え、勤続年数は2.5年延びた。しかし管理職比率は13%程度と、海外に比べ著しく低い。平成元年(1989年)に新卒で入社した野村証券の鳥海智絵専務執行役員と三菱ケミカルの華房実保執行役員に、仕事観やキャリアを積み上げることの意味について語ってもらった。
鳥海氏 制服廃止で女性の意識変わる
――平成元年に就職したお二人。同級生も仕事を続けていますか。
鳥海 高校も大学も半分は専業主婦。半分は仕事を続けているが、なぜか独身、もしくは既婚の子なし。完全に二極分化している。
華房 私は全く違う。大学で同じ学科の学生は74人中13人が女性で、11人はずっと働いている。企業の研究職とか大学とか。子どもが小さい頃は数家族が集まってバーベキューしたりしていた。
――仕事を続けてこられた原動力は何でしょう。
鳥海 入社したとき女性総合職は7人いたが、12年以内に私以外は全員辞めた。私自身も何度か「辞める」と言ったが、その時々で助けてくれる人がいた。そういう人間関係ができているなら縁を切らなくてもいいかなと考え、ここまできた。
もともとキャリアパスを描いていたわけではない。その時その時でパスを選んだら今に至ったという感じだ。
華房 ものづくり、お客様との関係が好きで、商品開発や面白いことをやって社会に役立ちたいと思い仕事をしてきた。全く不十分だったが子育てしつつ働けたのは両親や上司などみんなに助けられたのと娘が偉かったからかな。
制度は今ほど整っていなかったが、フレックスや裁量労働制というのもありがたかった。朝会社で実験をして、昼にPTAの集まりに参加して、また会社に戻ったりしていた。
華房氏 様々な経験、視野広げる
――この30年、会社で女性の働き方は変わりましたか。
鳥海 入社した頃は30歳を過ぎた女性はほとんどいなかった。今は結婚でやめる人はものすごく少ないし、育児休業からの復帰は95%だ。2005年にいわゆる総合職・一般職の区別をなくし、08年に制服を廃止したあたりから明確に変わった。制服と私服はシンボリックに違うので、女性の意識もそこから変わったように思う。
本社でいえば08年に経営破綻した米リーマン・ブラザーズの事業を承継し、それまでの秩序ががらっと変わった。年齢とか性別を超えた本当のダイバーシティが押し寄せた感じ。営業店には今や女性管理職が70人超いる。30年でよくここまで変わったなと思う。
華房 研究所は専門職なので均等法前から先輩がいてありがたかった。営業職とか本社に今いる女性でも、もとは研究所にいたという人が多い。
それでもこの10年くらいで変わった。制度がとにかく充実して、今や化学業界ではかなり制度が整っている会社かも。配偶者の海外転勤に合わせて休職できたり、できるだけ早く育休から復帰できるように保活コンシェルジュや保育園の法人枠を用意していたり。私のように親に頼らなくても育児と仕事を両立しやすくなった。
――新たな課題も見えているようです。
鳥海 制度が整ったがゆえに大変、というのが次の世代の悩みなのかな。両立が当たり前とされるが、結局のところ家事負担は女性の方が大きいし、女性自身もやらなきゃと思っている。
「なぜ女性ばかり優遇して昇格させるのか」という声もあるが、私は多少のゲタを履かせてやっと男女がイーブンだと思う。男性というだけで得してるのだから。両立の制度ができても負担の実態は異なる。そのことへの理解と男性側の行動が変わらないと。
――「全上場企業で女性役員1人以上」という目標が掲げられました。役員になってよかったこと、見えたことは何でしょう。
(互いに見つめ合って)「そんなきれい事じゃない」(笑)
鳥海 ただ、女性が増えないと何も変わらない、そのために何かやらなきゃいけない、という雰囲気にはなった。外生的な力がないと企業が自分の力で変わるのは難しい。
華房 内閣府で働いていたとき、海外の人たちとディスカッションする機会があった。「日本もやっとやり始めたのね」と言われたが、どの国も30年くらい前から始めて、努力を重ねている。何もしないよりは、なにかした方がいい。
――女性役員が増えると会社は変わりますか。
鳥海 いま役員になっている女性は男性化してうまくやってきたからで、発想は男性とあまり変わらない。男性化していない人は途中で淘汰されているのが現状。本当に変えるなら、そういった女性が入ってこないと。
華房 私はこれまで「性別」の枠を意識せずに見てもらえてきたから良かったのかもしれない。ずっと言いたいことを言ってきたし、クビになっても構わないというスタンスだから。
いろいろな人がいた方が最終的にいい方向に決着するに決まっている。性別はたくさんある属性のひとつ。誰も思いつかないことをゼロから作り出すには、いろいろな発想の人が必要だ。その1人という点で意味があるのかも。
――新しい時代、女性自身ができることは何でしょう。
華房 機能性農業資材の研究開発を担当していた研究所勤務だけでなく、研究企画、事業化推進、そして持続可能な社会作りのために活動するグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンや内閣府などでも仕事をした。私の意志だけで積んだキャリアではないが、経験させてもらったことで視野が広がった。いろいろな経験をすることが重要だと思う。
鳥海 チャンスがあったとき、「自信がない」という人が女性には多い。成功する女性を分析すると、自信がないからこそきちんと準備している。自分も同じだ。その結果、自信があるからと準備しないで臨む男性よりもパフォーマンスが高い。自信がなくて大いに結構。それを強みにすればいい。
華房 私は会社のために働いているわけではなく、会社を通して社会に貢献したい。会社とか部署にとらわれがちだが組織は手段。必ずしも同じ会社にずっといる必要もないし、社会の中で自分がどう生きたいのかが重要。役職があるからできることもたくさんある。
意識改革、令和でじっくり ~取材を終えて~
博報堂生活総合研究所によると「夫も家事を分担する方が良い」と回答した夫は81.7%(2018年)で30年前(38%)と比べて大幅に増えている。ただ、実際に「夫がよくやる家事」は最も多い「ゴミ出し」で35.1%。部屋の掃除や洗濯は10%程度にとどまる。鳥海氏が指摘するように、このままでは「女性が活躍すると負担が増えるだけ」になる。
華房氏は言う。内閣府で男女共同参画局担当だった頃、海外の政治家らと話をし、「(女性の活躍に関して)先進といわれる国でも、親の世代から30年くらいかけて取り組んでいるから今があると知った」。意識を変え、行動につなげるにはとても時間がかかる。制度を充実させた平成に対し、令和時代は意識・行動改革にじっくり取り組む必要がありそうだ。(女性面編集長 中村奈都子)
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