ミラーレス、販売数で一眼レフ超え トップはキヤノン
大河原克行のデータで見るファクト
ミラーレスカメラの販売が好調だ。業界団体であるカメラ映像機器工業会(CIPA)の発表によると、2018年(2018年1月~12月)のミラーレスカメラの販売台数は、前年比8.6%増の59万台となり、前年比30.4%減と市場縮小が顕著な一眼レフカメラの47万台を上回った。同工業会が調査を開始して以来、ミラーレスカメラの販売台数が、一眼レフカメラを超えたのは初めてのことだ。
その勢いは、量販店店頭でも感じられる。
全国の量販店などにおける販売状況を調査しているBCNによると、2019年第1四半期(2019年1月~3月)におけるレンズ交換型カメラの販売台数実績のうち、63.5%をミラーレスカメラが占めており、ほぼ3台に2台がミラーレスという結果になっている。
一眼レフカメラの市場縮小に加えて、写真撮影機能が向上しているスマホに押されて需要が減少しているコンパクトデジカメに対して、ミラーレスカメラだけが市場を拡大している格好だ。量販店では、ミラーレスカメラの売り場拡大に余念がない。
小型軽量で動画も得意
ミラーレスカメラが人気になったのには理由がある。
一つは、ミラーレスカメラならではの技術的な特徴だ。ミラーレスカメラは、従来の一眼レフカメラよりも小型化、軽量化が図りやすい。また、光学ファインダーに代わって搭載されている電子ビューファインダーを通じて、明るさや色味などを撮影前に確認することができるといった利便性の高さも特徴の一つだ。
そのため大きなボディーのカメラを持ちたくないというユーザーや、機動性を重視したいユーザーなどに人気を博している。プロカメラマンやハイアマチュアカメラマンの間でも、2台目のカメラとしてミラーレスカメラを活用するといった例も増えている。
また、ミラーレスカメラには、動画性能に優れた製品がラインアップされているのも特徴のひとつだ。動画サイトへの投稿などに利用したり、ビデオグラファーが利用したりする例も増えている。テレビの番組制作を行う関係者からも、「ロケハンや海外取材には、大型の撮影機材を持ち込めないため、ミラーレスカメラの動画機能を活用している」といった声が聞こえてくる。
エントリーモデルが購入しやすい価格設定となっている点も、ミラーレスカメラ市場拡大の要素のひとつになっている。
10万円を切る価格で、レンズ2本とセットで購入できるほか、特価品を狙えば、5万円以下でも、本体とレンズ2本のセット購入が可能だ。量販店では、スマホの写真では飽き足らないというユーザーが購入するケースが増えているという声が聞かれる。
ここでは、小型、軽量の特徴を生かして、手軽に持ち運びやすいデザインを採用していることから女性の購入も多く、従来のコンパクトデジカメの需要層も取り込んでいる。
「フルサイズ」に注目が集まる
ここにきて、注目を集めているのが、「フルサイズ」と呼ばれる大型のイメージセンサーを搭載したミラーレスカメラである。
フルサイズとは、従来のフィルムカメラで最も多く普及していた35mmフィルム相当のイメージセンサーを搭載したミラーレスカメラのことを指す。これまでミラーレス市場をけん引してきたマイクロフォーサーズやAPS-Cに比べて、フルサイズは、より多くの光や情報を取り込むことができるため、明暗や濃淡をなめらかに再現し、より高画質な写真を撮影できる。「フルサイズセンサー搭載のカメラであれば、風景や人物撮影もより立体的に、細やかに表現でき、夜景撮影などでも、目に見たよりも明るく撮影するようなことも可能」(キヤノン)という点が特徴だ。
これまでは一眼レフカメラの需要層であった本格的に写真を撮影したいという人にとっても、ミラーレスカメラが選択肢のひとつに入ってきたわけで、この動きが加速すれば、今後のハイエンドカメラ市場の主戦場が、フルサイズミラーレスに移行することになるだろう。
また、フルサイズミラーレスは、2013年に、世界初のフルサイズミラーレスを発売したソニーの独壇場だったが、2018年秋以降、ニコン、キヤノン、パナソニックがフルサイズミラーレスカメラを発表し、主要メーカー各社から製品が出そろってきたことも、フルサイズ市場を加速することにつながっている。
BCNによると、2019年3月におけるフルサイズの販売台数構成比は、9.8%とまだ低いが、1月の8.2%、2月の8.8%と月を追うごとに拡大している。4月以降、2桁になる可能性も高い。
シェアトップはキヤノン
ミラーレスカメラの市場拡大とともに、メーカーの勢力図も変化してきた。
一眼レフカメラ市場はキヤノン、ニコンが2強だったが、その構図は大きく崩れている。
BCNの調べによると、2018年度(2018年4月~2019年3月)におけるミラーレス一眼カメラのメーカー別シェアは、1位が、EOS Kiss Mで幅広い層にミラーレスカメラを普及させたキヤノンで、32.8%のシェアを獲得している。フルサイズミラーレスのEOS Rシリーズを投入してラインアップを強化したことにより、シェア1位の地盤固めに余念がない。
2位はオリンパスで23.4%。マイクロフォーサーズのPENシリーズとOM-Dシリーズをラインアップしている同社は、フルサイズ市場には参入しない姿勢を打ち出している。マイクロフォーサーズへのこだわりが今後の製品展開でも注目される。
3位は、ソニーの23.0%。オリンパスと2位の座を僅差で争っている。APS-Cによるエントリーモデルによる普及戦略に加えて、ここにきて、フルサイズミラーレスに注目が集まりはじめたことで、この分野で先行したα7シリーズにとっては追い風となりそうだ。
4位はパナソニックで10.1%のシェア。ここまでが2桁シェアを獲得している。2008年に、世界初のミラーレスカメラを発売した同社だが、フルサイズミラーレスでは後発となった。先ごろ発売したフルサイズミラーレスカメラのLUMIX Sシリーズは、プロフェッショナルを強く意識した製品で、2019年4月には、東京・銀座に、同社初となるLUMIXのギャラリーおよびショールーム「LUMIX GINZA TOKYO」をオープン。プロフェッショナル向けサービス「LUMIX PROサービス」を実施するサポート拠点を同時に開設して、これまでほとんど手つかずだったプロカメラマンやプロビデオグラファー向け市場に本格的に打って出る姿勢を示した。
しばらく低迷傾向にあったデジカメ市場だが、ミラーレスカメラ市場だけを見れば、成長領域であり、カメラメーカー各社に共通しているのは、今後の成長が見込まれるミラーレスカメラへの投資を優先している点だ。また、2月下旬に開催された国内最大のカメラ展示会「CP+」には、各社のミラーレスカメラが一堂に展示されたことで、前年を上回る約7万人が来場するなど、ミラーレスカメラに対するユーザーの注目度も高まっている。
ミラーレスカメラが、デジカメ市場を活性化することになる。
(ライター 大河原克行)
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