私の妊娠可能性や年齢リミットは? 産婦人科医が回答
いつか子どもが欲しいと考えている女性でも、妊娠や出産はまだ先でいいと考えている人は多いと思います。ただ、将来の妊娠に向けて、自分が妊娠しやすい体かどうかは気になるところ。そこで「妊娠のしやすさ」と「妊娠のリミット」について、産婦人科医の高橋怜奈さんに話を聞きました。
「血液検査で卵巣年齢が分かる」はあくまで目安
妊娠や出産はまだ先でいい。「でも、取りあえず自分は妊娠しやすい体なのか知りたい」という人も多いのでは? 周りを見てみると、子どもを何人も産んでいる人も、なかなか授からなくて苦労している人も、それぞれ体形や生活スタイルもさまざま。妊娠しやすい体ってどんな体なのか、イメージしにくいですよね。
高橋さんの診察室にも「妊娠できる体かどうかチェックしてほしい」と訪ねてくる女性がたくさんいるそうです。でも、残念ながら、妊娠のしやすさは簡単に調べることはできないと高橋さんは言います。
「少し前に、AMH(アンチミューラリアンホルモン)値を測る血液検査がはやりました。AMHを測ると、卵巣内に卵子がどれくらい残っているかが分かります。この検査により卵巣年齢が分かると考え、たくさんの人が飛びついたのですが、この数字も妊娠しやすさの一つの目安に過ぎません。なぜならたとえ卵巣にたくさんの卵子が残っていても、年齢を重ねていれば卵子の質は低下しますし、残っている卵子の数が少なかったとしても、卵子の質が高ければ妊娠します。AMHの数値が高いからといって、それだけで妊娠しやすいと考えるのは早計です」
卵子の老化によって妊娠の確率は下がる
とはいえ、先々に妊娠したいと考えるならば、将来妊娠できる可能性のある体なのかどうか知って安心しておきたいところですよね。では、自分が妊娠しやすいかどうかは、何を調べればよいのでしょうか?
「妊娠のしやすさは、正直、妊娠してみないと分からないんです。妊娠はいろいろな要素が重なって初めて成立するもの。もともと生理不順だったからといって妊娠しないとは限らないし、子宮頸管(けいかん)が精子を受け入れやすいか、卵管がちゃんと通っているかといった女性側の体の問題もあれば、精子との相性などパートナーとの問題、また男性因子が授かりにくさにつながることもあります。不妊治療専門の病院でしっかり調べて、データ上は何も問題がないのに体外受精がうまくいかないケースもあって、医学でも説明できない部分もある。だから妊娠には、奇跡的な一面もあるといえます」
中には、「自分がちゃんと排卵しているか知りたい」という人もいます。確かに知りたいところですよね。ただ、長期にわたって基礎体温を測ったり、血液検査でホルモンの値を調べたりしないと、女性の体内で排卵が行われているかどうかを厳密に知るのは難しいとのこと。検査で妊娠しやすさの一つの目安を知ることはできても、妊娠しやすい体かどうか、確実に知る方法はないのです。
さらに、妊娠できる年齢にリミットがあること、そして加齢によって妊娠・出産する上でリスクが伴うことは事実だと、高橋さんは言います。
「年齢を重ねると、どんなに外見が若くても年齢と同じく卵子も年を取ります。年を取った卵子は、受精卵や胚にならなくなってしまったり、染色体異常があったりすることも多くなります。これは加齢だけが原因ではありませんが、年齢が上がるほどその確率が高くなるのは確かです」
体としてベストな妊娠時期は10代後半~30代前半
卵子が若ければ若いほど妊娠しやすいということは、初潮を迎えた女の子であれば、10代前半でも早く妊娠したほうがいいのでしょうか?
「妊娠のしやすさという点では若いほうがいいのですが、あまりにも若い10代前半で妊娠すると、子宮や膣(ちつ)が成熟しきっていないため妊娠や出産にリスクが伴います。女性の体にとってベストな妊娠の時期は、社会的なリスクは考えずに言うと、早くて10代後半から、30代前半がベストだと思いますね」
体の準備という点では、まさに20代~30代前半の女性は今が妊娠するベストな時期。とはいえ、しばらくは仕事を頑張りたいし、結婚もまだ先のこと。今すぐ妊娠してもいいとは言えないのが、正直なところですよね。では、働く女性にとって、いつまでに妊娠するのがおすすめなのでしょうか。
「日本産科婦人科学会は35歳以上の初産を高齢出産としていますが、人によって体の状態や社会的状況も違いますし、働く女性がいつまでに妊娠すればいいかは一概には言えません」と高橋さん。そしてパートナーとしっかりコミュニケーションを取って関係を築いた上で、と前置きしながら、こんな話もしてくれました。
「私は、結婚と妊娠の順番はどちらでもいいと思いますよ。今は、子どもが欲しいから、授かってから結婚するという方も増えています。結婚と妊娠の順序としては自由に、自然に任せてもいいと思いますね」「ただ、妊娠後に万が一独り身になってしまうと、思い描いていたのとは違う人生を歩むことにもなるので、そこは忘れずにパートナーとしっかり話をしておきましょう」
女医+(じょいぷらす)所属。東邦大学医療センター大橋病院・婦人科在籍。趣味はベリーダンス、ボクシング、バックパッカーの旅。2016年6月にボクシングのプロテストに合格をし、世界初の女医ボクサーとして活躍中。ダイエットや食事療法、運動療法のアドバイスも行う。
(取材・文 川辺美希)
[日経doors2019年3月12日付の掲載記事を基に再構成]
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