「彼は電話をかけてきてこう言いました。『もしもし、人の骨だったよ』」とミハレス氏は話す。「『本当に? ビールで乾杯だ!』と私は答えました」

2010年、ミハレス氏の研究チームは、6万7000年前の化石をとりあえず小型のホモ・サピエンス(Homo sapiens)として発表した。しかし同氏は、実際には新種で、フローレス原人のルソン島版ではないかと考えていた。そして、真相を確かめるには、もっと多くの化石が必要だった。

見たことのない組み合わせ

2011年と2015年に再び行ったカラオ洞窟の発掘調査で、幸運にも、足の指の骨を2本、歯を7本、手の指の骨2本、そして大腿骨の一部をミハレス氏らは発見した。少なくとも3人分以上の骨だった。

これらの小さな化石では、意外なことに、とても古い人類とかなり新しい人類の両方の特徴が見られた。例えば、歯は小さく比較的単純な形でより「近代的」だが、上の小臼歯には歯根が3つあった。これは、現生人類では3%未満にしか見られない特徴だ。一方、足の骨はアウストラロピテクスのものと似ている。およそ300万年前、アフリカを歩いていた人類で、かの有名なルーシーも、アウストラロピテクスの仲間である。

ルソン原人の歯。この5本は同一人物のものだった。歯は小さくて比較的単純な形をしている。しかし、1本の小臼歯には、現生人類では珍しい3本の歯根があった(PHOTOGRAPH COURTESY OF CALLAO CAVE ARCHAEOLOGY PROJECT)
足の指の骨。現生人類と比べると、異常に湾曲している。アフリカに生息していたアウストラロピテクスなどの比較的古い人類によく見られる特徴だ(PHOTOGRAPH COURTESY OF CALLAO CAVE ARCHAEOLOGY PROJECT)

「これまで見たこともないような特徴の組み合わせについては、著者と同じ意見です」と、スペイン国立人類進化研究センターの所長マリア・マルティノン=トレス氏は話す。

古代の歯の専門家で米ニューヨーク大学の人類学者シャラ・ベイリー氏は、南アフリカで見つかったホモ・ナレディ(Homo naledi)にも、古代と近代の両方の特徴があったと述べる。ベイリー氏は、この2種の初期人類の発見を、人類の「モザイク」的な進化が一般的に起こっていた証だと捉えている。

さらに、マルティノン=トレス氏は、歯の特徴の混じり方が、中国南部の独山県で見つかった1万5000年前の人類の化石と多少似ていると述べる。同氏の研究チームは、この独山の人類化石に関する論文を2月20日付けの学術誌「Scientific Reports」に発表した。これら最近の相次ぐ発見により、アジアの人類は、更新世が幕を下ろす1万2000年前にはすでに驚くほど多様だったことがうかがえる。

DNAは見つからず

多くの科学者が今回の徹底した研究を称賛しているものの、わずか13個の小さな骨と歯から種を定義するのは難しい。DNAを抽出しようとしたが、熱帯の暑さと湿度に何千年もさらされたサンプルでよくあるように、うまくいかなかった。

また、ルソン原人が小さいことも、一部の骨の特徴が実際よりも原始的に見える原因となり得る、と米ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス氏は言う。なお同氏は、今回の研究には関わっていない。これが、他の既知の人類との比較を難しくしているという。否定しがたい特徴があり、新種とするのが合理的だと同氏は考えているが、何はともあれ「もっと骨が見つかることを心から望みます」

ルソン原人は新種であると強く確信している研究者もいる。

「新たに発見した化石について、研究チームはきわめて慎重かつ実に素晴らしい仕事をしています。個人的には、新種の命名は妥当だと思います」とフローレス原人の専門家でオーストラリア、グリフィス大学の考古学者アダム・ブラム氏はメールで述べた。「本当にセンセーショナルな発見です」。なお同氏は、今回の研究には関わっていない。

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道具を使っていたルソン原人
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