カーニバルに秘めた民衆の抗議 ブラジルに残る文化
ブラジルの都市といえば、金融の原動力サンパウロや、美しい街並みのリオが有名だ。しかし、バイーアの州都サルバドールも、カーニバルに代表される活気あふれる文化で知られている。そして文化的な表現は、時に抗議の手段にもなる。現在、極右政治が力をつけ国民の分断が進んでいると言われるブラジルの一面を、ステファニー・フォデン氏の写真で見てみよう。
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かつてブラジルの砂糖産業を支えるために、アフリカ奴隷の3分の1以上がこの国へ連れてこられた。サルバドールは、ポルトガルの町をほうふつとさせる部分が多いが、町のルーツをたどると西アフリカに行きつく。
スパイスをふんだんに使った料理から、明るい音楽、魅惑的な踊りに満ちた宗教儀式まで、この町はあらゆる感覚が交錯したひとつの巨大な塊だ。いったいここは、ポルトガルなのか、それとも西アフリカのベナン共和国なのか。
1888年、米大陸で最後まで奴隷制を維持していたブラジルが、それを廃止した。この不名誉な記録について、国民はあまり語りたがらない。だが、最も率直にその話題を持ち出してくるのが、サルバドールの人々だろう(サルバドールはかつて、新大陸最大の奴隷貿易港だった)。
しかも、深刻なテーマにはおよそ似つかわしくない打楽器隊という形をとって。だが、ちょっと考えてみればわかるはずだ。巨大なバスドラムを思い切り叩けば、人々は振り向く。打楽器が集まって、一斉に人種の平等をうたえば、数十万人が耳を傾ける。
サルバドールのカーニバルには、毎年100万人近くが訪れる。そこで最も耳にするビートは、時に100人もの奏者によって演奏されるサンバレゲエ(サンバヘギ)だ。ブラジルを代表するサンバと、ジャマイカを代表するレゲエは、どちらも元々抗議の歌を陽気なビートに乗せた音楽だ。そのリズムが、生で飾り気のない、喜びの入り混じった怒りをかきたて、新たなジャンルへと発展した。
どんちゃん騒ぎではない
バイーアのカーニバルが、単なるどんちゃん騒ぎだと思って行くと、驚かされるだろう。そこは、ブラジル流の政治的主張を行う場なのだ。毎年カーニバルで、音楽やダンス、ファッションを通して黒人文化の普及に努める集団を「ブロコ・アフロ」と呼ぶ。パレードで彼らはいつも、アフリカのルーツを祝いながら複雑な政治問題を訴える。
奴隷制の時代、強制労働させる目的で約170万人ものアフリカの人々がバイーアへと送られた。その多くは、現代の西アフリカにあるベナン共和国の出身だった。人々はその歴史を忘れるべきではないと、ブロコ・アフロは考えている。
そんなブロコ・アフロの副代表を務める活動家のルマ・ナッシメントさんは、人々の集団と政治の関係をよく理解している。「カーニバルには、明らかな民族的分断があります。高額な料金を払って見物席からパレードを見物するのはほとんどが白人です。そして、彼らにサービスを提供しているのはほとんどが有色人種です」
人種差別や極右キリスト教福音派の台頭への不満を表すため、ナッシメントさんたちは、カーニバルで政治的スローガンを口々に叫んでいた。
次ページでも、ステファニー・フォデン氏の写真でサルバドールの街と人々を紹介する。
(文 PEDRO H. DE ABREU、写真 STEPHANIE FODEN、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年3月31日付記事を再構成]
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