グルメクラブ powered by 大人のレストランガイド

食のリーダー

「化学調味料」の誤解解きたい 味の素社長世界を巡る 味の素社長 西井孝明氏(下)

2019/4/27

味の素社長 西井孝明氏

2018年9月、米ニューヨークで「World Umami Forum(ワールドうま味フォーラム)」を開催し、世界に向けてうま味発見110年を発信した味の素。うま味で世界の食をリードしてきたが、うま味にまつわる課題も発生。その課題にどう取り組んできたのか、西井孝明社長に聞いた。(前回の記事は、「スマートクッキングはうま味のなせる技 味の素社長」

――18年9月、うま味発見110年を記念する「ワールドうま味フォーラム」の開催は、米国ニューヨークでした。

うま味は、米国の近代的な食事スタイルの形成に大きく貢献してきたのですが、同時に大きな課題も突き付けられていました。その解決のために、まずは米国で実施する必要があったのです。それは、68年に端を発した中華料理店症候群(チャイニーズレストランシンドローム)です。当時、中華料理店で食事をした人が健康被害を訴え、それを調査した科学者が、原因は料理に使われているうま味成分であるグルタミン酸ナトリウム(MSG)であると、医学論文誌に発表したのです。これによって、「うま味調味料は危ない」という噂が一気に広まりました。

それまでは、おいしい食品の代名詞として、食品メーカーはこぞって商品パッケージに「with MSG(グルタミン酸ナトリウムを使っています)」と表示していたのですが、この事件が起きてからは、逆に「NO MSG」(グルタミン酸ナトリウムを使っていません)と表示するようになったのです。つまり、「MSGを使っていないので、危なくないですよ、安心して食べてください」という意味です。

事件前まで米国の一般消費者は、中華料理というのはなぜこんなに独特のおいしさがあるんだろう、同じように野菜をいためても欧米人が食べていたクリームシチューなどとは違うおいしさがある、油のうま味だけではないおいしさがある、と理屈は分からないけれど、不思議と癖になるおいしさがあると思っていました。だから、医学論文が発表されたときは、やはり未知のもの、新しく革新をうたうものは、危なかったんだと思い込みを強くしました。中華料理も、今ほどに米国各地のチャイナタウンが発展しておらず、一般の米国人にとってはなじみも薄かったこともあったでしょう。人間は、よく知らないものに対しては警戒するものです。

事件発生から19年間、科学者たちがMSGの安全性についてさまざまな研究を続けました。反論も提議され、最終的には米食品医薬品局(FDA)を含めた研究機関が、チャイニーズレストランシンドロームとMSGの因果関係がないことを科学的に証明し、これも論文発表されたのです。今や科学の世界では、MSGの安全性に問題はないというのが定説となっています。

ところが、この19年間の論争があまりにも長く続きすぎたために、一般消費者の方やそれを扱われるレストランやその関係の仕事の皆さんなどには、MSGの安全性に問題はなかったということが伝わらず、「NO MSG」という表示が残り続けたのです。

――報道でも、「危ない」という注意喚起を促すことはニュースとして取り上げられますが、「安全でした」ということはニュースにはなりにくいものです。

その通りです。そして、「NO MSG」とレストランの店頭で表示されていれば、「MSGは危ないからこの店では使っていないのだな」と誤解し、さらにいえば「ほかの店はこの表示がないので、MSGを使っている危ない店だ」と誤解を重ねたのです。今で言う風評被害です。こうした誤解を正すためにも、まずは米国で「ワールドうま味フォーラム」を開催する必要があったわけです。

米国以外でもMSGが不適切に扱われていました。例えば、ナイジェリアでは何十年も前に我々の競合相手が、「MSGは毒である」というコミュニケーション活動を展開したんです。彼らは、食品用ではなく、工業用のMSGをたくさん作っていましたから、マーケティング的には有効に働きました。しかし、「MSGは毒である」という間違いを世間に訴求しては、一般消費者が間違いを信じることになり、大きな問題です。

グルメクラブ 新着記事

ALL CHANNEL