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「化学調味料」の誤解解きたい 味の素社長世界を巡る

味の素社長 西井孝明氏(下)

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NIKKEI STYLE

2018年9月、米ニューヨークで「World Umami Forum(ワールドうま味フォーラム)」を開催し、世界に向けてうま味発見110年を発信した味の素。うま味で世界の食をリードしてきたが、うま味にまつわる課題も発生。その課題にどう取り組んできたのか、西井孝明社長に聞いた。(前回の記事は、「スマートクッキングはうま味のなせる技 味の素社長」

――18年9月、うま味発見110年を記念する「ワールドうま味フォーラム」の開催は、米国ニューヨークでした。

うま味は、米国の近代的な食事スタイルの形成に大きく貢献してきたのですが、同時に大きな課題も突き付けられていました。その解決のために、まずは米国で実施する必要があったのです。それは、68年に端を発した中華料理店症候群(チャイニーズレストランシンドローム)です。当時、中華料理店で食事をした人が健康被害を訴え、それを調査した科学者が、原因は料理に使われているうま味成分であるグルタミン酸ナトリウム(MSG)であると、医学論文誌に発表したのです。これによって、「うま味調味料は危ない」という噂が一気に広まりました。

それまでは、おいしい食品の代名詞として、食品メーカーはこぞって商品パッケージに「with MSG(グルタミン酸ナトリウムを使っています)」と表示していたのですが、この事件が起きてからは、逆に「NO MSG」(グルタミン酸ナトリウムを使っていません)と表示するようになったのです。つまり、「MSGを使っていないので、危なくないですよ、安心して食べてください」という意味です。

事件前まで米国の一般消費者は、中華料理というのはなぜこんなに独特のおいしさがあるんだろう、同じように野菜をいためても欧米人が食べていたクリームシチューなどとは違うおいしさがある、油のうま味だけではないおいしさがある、と理屈は分からないけれど、不思議と癖になるおいしさがあると思っていました。だから、医学論文が発表されたときは、やはり未知のもの、新しく革新をうたうものは、危なかったんだと思い込みを強くしました。中華料理も、今ほどに米国各地のチャイナタウンが発展しておらず、一般の米国人にとってはなじみも薄かったこともあったでしょう。人間は、よく知らないものに対しては警戒するものです。

事件発生から19年間、科学者たちがMSGの安全性についてさまざまな研究を続けました。反論も提議され、最終的には米食品医薬品局(FDA)を含めた研究機関が、チャイニーズレストランシンドロームとMSGの因果関係がないことを科学的に証明し、これも論文発表されたのです。今や科学の世界では、MSGの安全性に問題はないというのが定説となっています。

ところが、この19年間の論争があまりにも長く続きすぎたために、一般消費者の方やそれを扱われるレストランやその関係の仕事の皆さんなどには、MSGの安全性に問題はなかったということが伝わらず、「NO MSG」という表示が残り続けたのです。

――報道でも、「危ない」という注意喚起を促すことはニュースとして取り上げられますが、「安全でした」ということはニュースにはなりにくいものです。

その通りです。そして、「NO MSG」とレストランの店頭で表示されていれば、「MSGは危ないからこの店では使っていないのだな」と誤解し、さらにいえば「ほかの店はこの表示がないので、MSGを使っている危ない店だ」と誤解を重ねたのです。今で言う風評被害です。こうした誤解を正すためにも、まずは米国で「ワールドうま味フォーラム」を開催する必要があったわけです。

米国以外でもMSGが不適切に扱われていました。例えば、ナイジェリアでは何十年も前に我々の競合相手が、「MSGは毒である」というコミュニケーション活動を展開したんです。彼らは、食品用ではなく、工業用のMSGをたくさん作っていましたから、マーケティング的には有効に働きました。しかし、「MSGは毒である」という間違いを世間に訴求しては、一般消費者が間違いを信じることになり、大きな問題です。

それから、インドでは乳児に一定期間食べさせてはいけない食品リストの中にMSGが入っています。ご承知のように、母乳の中に最も含まれているアミノ酸というのはグルタミン酸である一方、メーカーが作った粉ミルクというのは、ほんの一部のプレミアム品を除いてはグルタミン酸は含まれていません。粉ミルクにグルタミン酸が含まれていないことが過食に通じており、ジャイアントベビーの問題につながっていると指摘する科学者もいます。

つまり、こういう問題はMSGに対する否定ということが原点にあって、これが発祥の地の米国から海を渡ってそれぞれの国に展開する中で誤解が重なり、受け手側のリテラシーのなさに加えて、科学をベースにした適切なコミュニケーションを行うことができませんでした。このように、MSGはそれぞれ違った課題を各国に与えている状態です。米国以外のこうした問題も含めて我々は取り組んむべきという意味も、フォーラムに込めました。

フォーラムでは、何人もの専門家が登壇した中で、日本人はうま味インフォメーションセンター理事、当社の二宮くみ子上席理事だけで、ほかは全員米国人でした。もともと米国でチャイニーズレストランシンドロームが起こり、そのMSGの安全論争が米国を中心に展開し、そして安全性を科学的アプローチで証明したのも米国です。今、残されているのは、「NO MSG」という典型的な食の風評被害の残存物であり、この先正しい理解を促進するのは、我々の仕事だと思います。

ユニークだったフォーラムでの発表を一つ紹介しましょう。今は当社社員でもある米コロンビア大学の客員教授がYoutubeに流したビデオメッセージについてです。「卵を食べ過ぎるとコレステロール過多になって身体によくないから1日1個までにしましょう」というのが20年くらい前にありましたよね。後で科学的根拠がないことが明らかになったために今はまったく言われなくなったんですけど、彼女はそれをリスクコミュニケーション(リスク評価、リスク管理とともにリスク分析手法を構成する3要素の1つ。評価、管理の結果を、ステークホルダーの間で理解し合うこと)を徹底して行い、風評を一定以下に収めたキーパーソンなんです。

彼女が制作したビデオメッセージは、あるピザ屋さんの店頭のシーンから始まります。メニューには、「with MSG」と「NO MSG」と2つから選べるようになっていて、「どちらがいいですか」とお客さんに聞くんですね。ある人は「with MSG」のピザを食べていて、見ると普通のピザです。そこで「NO MSG」のスペシャルピザを頼むんです。すると、出てきたのが、ドゥー(小麦粉の生地でできたピザの台)だけで、チーズもトマトも何の具も載っていないピザなんですよ。店主は「これはあなたが求めているピザですよ」と。MSGは、コンブやカツオ節だけでなく、チーズやトマトなど、多くの食材に含まれています。つまり、MSGというものがほとんどの食材に普通に含まれていて、すでに皆さんが食べているものなんで、そんなに毛嫌いするようなものじゃないんですよと、ユーモラスに真意を伝えているのです。

――日本では、「NO MSG」と同じような「無添加」という問題があります。

日本の「無添加」問題は、「食品添加物を添加していない(使用していない)」という意味の言葉ですね。主に、人工保存料、人工甘味料、人工着色料などの食品添加物を使用していないという意味で使われているようです。「無添加」には、「無化調(化学調味料を添加してない(使っていない)」も含んでいることもあるようですが、「無添加」と「無化調」はあえて分けて考えたいのです。

化学調味料は、当社の製品の味の素であるうま味調味料を指しているのですが、1960年代にNHKが、「味の素」という商品名を放送できないということもあって、MSGが革新的であり、先進的であるという良い意味を込めて、こう呼んだのが始まりです。米国の「with MSG」と同じように良い意味で、グルタミン酸が神経伝達物質でもあることから、「頭が良くなる」とも言われたものでした。ところが、環境汚染などの公害問題が大きくなったころ、「化学」が人工的で、健康にも悪いものとネガティブにとらえられるようになってしまったのです。

化学調味料という呼び方から、「化学合成している」「石油から作っている」というとんでもない誤解も出てきました。そもそも、MSGは化学合成ではなく、サトウキビのでんぷんを発酵して作っているのです。日本酒や味噌、しょうゆといった日本の伝統食品と同じ作り方です。

発酵により生産しているMSGは、味噌やしょうゆとは違って厚生労働省の食品衛生法が規定する食品添加物ですが、逆に法律に規定されているからこそ、安全性が確認され厳格に管理されています。一般の食品は、長い食経験に基づいて食べられているだけで、安全性の確認試験を行っているものではありません。ある意味、安全性の確認試験をしていない一般の食品よりも、安全性の確認試験をしているMSGの方が、よっぽど安全であると言えるかもしれません。

それでも、大企業が製造するうま味調味料よりも、料理人が時間をかけてコンブやカツオ節からとっただしの方がおいしいとか、お母さんが手作りしただしの方が愛情がこもっているので子供にはそうしたものを食べさせるべきだという意見の方々はいらっしゃいます。それで何が起こるかというと、例えば、うま味調味料を上手に使って減塩料理を手軽に楽しむということが、高いお金を出してコンブやカツオ節を買える人じゃないとできないということになってしまうのです。

施設給食などは1日3食で約1000円ですから、その中でもコンブやカツオ節を使って味噌汁や煮物を作ると、1000円では難しい。結果として肉が小さくなり、数が減り、魚が安いものになる……。こうすると、同じ値段でとれる栄養が減ってしまうということが起きてしまうのです。天然のだしの10分の1の値段で煮物や味噌汁を作ってもらい、その分を食材に回してもらえれば、十分な栄養と食事の楽しみを提供することができます。何かを否定することによって、それを上回る大きな犠牲が発生するということ、間違った情報の罪みたいなものをしっかりと訴えていきたいと思います。

ーー昨年の消費者庁の調査では、うま味調味料を含む食品添加物は、国によって安全性が確認されていることを知らない人が64%もいることが明らかになりました。

これは、うま味調味料を含む食品添加物の「無添加」問題に起因していると思います。消費者の多くは食品添加物は危ないと誤解しているので、無添加の食品を求めます。すると加工食品メーカーは、「無添加ですから安心してうちの製品を買ってください」と無添加表示することで消費者の誤解に基づいた支持を得て、そのメーカーは利益を上げるのです。私たちは私企業なので、経済合理性が働かない分野で活動することは、株主が許さないという面もあります。それでも、誤解によりうま味調味料が否定されているのであれば、それは間違っていますということを発信すべきだと思っています。それも、昨年ワールドうま味フォーラムを開いた理由の一つです。

それまでは、世界中の多くのMSGを生産するメーカーと一緒にInternational Glutamate Technical Committee(IGTC:国際グルタミン酸技術委員会)というグローバルなNGO組織を形成して、間接的にこの問題について情報発信をしてきました。日本でも、うま味調味料協会で安全性と有効性の普及に努めてきました。2015年に私が社長になって戻ってくるまでは、それが正しくて有用なアプローチだという理解でした。

ところが、我々メーカーとしては、うま味調味料によりスマートクッキングという厨房を代行すること機能で生活時間を豊かに使ってもらうという経済性を軸にした有用性を訴求するばかりで、それまでになかった新しい食品であることの説明を消費者の方々に直接的にはしてこなかったという反省があります。我々はなぜこの商品を提供しているのか、これはどこでどのように作られているのか、科学的には難しいかもしれないけど、どのような構造で、どのように安全性が確認されているのか、分かりやすい言葉で言い換えるとどうなるのかといった説明です。そもそも、我々が説明できないものは売ってはいけないのです。売るからには消費者の方々に寄り添ったコミュニケーションを、協会などの傘の下ではなく、我々メーカー自らが率先してやるべき時期にきたのです。我々がリーダーなので、リーダーとしての責務を果たしていきます。

西井孝明(にしい・たかあき)
1959年生まれ。82年同志社大学文学部社会学科卒業。同年味の素入社、04年味の素冷凍食品取締役家庭用事業部長、11年執行役員、13年ブラジル味の素社社長、味の素取締役常務執行役員、15年社長

(中野栄子)

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