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『目の見えない人は世界をどう見ているのか』 伊藤亜紗著 光文社新書

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』 伊藤亜紗著 光文社新書

視覚障害者について書かれた本書は、いわゆる福祉関係の問題を扱った本とは全く違う。見える人と見えない人との違いを明らかにすることで、体の潜在的な可能性を探ろうとする身体論だ。

著者は、かつて生物学者を志し、現在は美学、現代アートを専門とする研究者。視覚障害のある人々との対話を通し、彼らがどのように空間を把握しているのか、どのように感覚を使っているかなどを、柔らかな文体で解き明かす。見えない人の世界を通じて知る、体の驚くほど豊かな可能性。その数々を知るうちに、私たちが抱く体の「当たり前」が揺るがされ、興奮を覚えずにはいられない。

お互いを理解し合って生きるためには、自分とは異なる体を持つ存在に対して想像力を働かせることが必要だと語る著者。障害者だけでなく、外国人やLGBTなど、多様な人々が共生する社会を見つめ直すきっかけも与えてくれる。

要点1 見えない人には「死角」がない

見えるということは、「どこから見るか」という視点が存在すること。同じ空間でも、視点によって見えるものが全く違うし、必ず死角が出てくる。しかし、見えない人は、そもそも視点がないので、死角も生じない。視点に縛られないということは、空間を俯瞰(ふかん)的に把握したり、物体を3次元で捉えたり、内/外、表/裏といった区別なく、すべてを等価に「見る」ことができるということ。見える人に比べると情報量は限られるが、だからこそ情報に踊らされずに世界を捉えることができる。

要点2 「どの器官を使うか」より「どう使うか」

「見るのは目」「聞くのは耳」といったように、私たちは感覚と器官の結びつきを固定しがちだ。しかし、周囲の話し声をなんとなく耳に入れるのは、「眺める」ことと同じ。また点字も、実は「触る」のではなく、一定のパターンを認識して意味として理解するという「読む」行為なのだ。大事なのはどの器官を使うかではなく、それをどのように使うか。実際、事故や病気で特定の器官を失った人は、残された器官をそれぞれの方法でつくり替え、新しい体で生きる術(すべ)を見つける。人間の器官とその集まりである体は、実は柔軟でさまざまな力を秘めているのだ。

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