たとえば、一緒に働く人の能力がある程度そろっていると感じられていた環境から、ベンチャーのように能力もキャラクターも多種多様な人が入り混じった環境に変わった場合は求められる平衡感覚も違ってきます。以前の目的・ビジョンが当たり前だと思っていた人は、全く異なる価値観と出会ったとき、「常識」だと思っていたことを上書きする力を求められます。
営業や企画といった職種に求められる役割範囲や定義が異なっていたときに、それらを修正する能力も必要です。これらのような、今まで経験したことのなかった複合的な環境変化が一挙に押し寄せてくるなか、それぞれに対応しながら、成果を生み出していくプレッシャーに立ち向かわなければいけなくなります。それが初めてのミドル世代転職の最大の壁であり、転職成功を難しくさせる根源にあります。
ミドル世代の転職成功者に共通する3つの要素
逆に言うと、初めての転職を経験してしまうと、2度目以降の転職をすることになった場合には、貴重な経験知が残ることになり、同じ失敗を繰り返したくないという学習効果が機能して成功確率が高くなります。しかし、その一方で、初回の転職であっても、十分納得できる仕事に就くことができて、「転職は成功だった」と思っている人もたくさんいます。ミドル世代になってからの初めての転職であっても、自分なりに満足度の高い転職に成功した人は、どこが違うのでしょうか?
1)「経験・条件」より「やりたいこと」重視
経験を長く積み上げてきた人ほど、その財産を生かしたいと考えるのは当然のことです。しかし、前職でやってきた業種や職種、また、役職・待遇・給与水準などの条件にこだわりすぎ、「前職と同等かそれ以上」という条件で転職先を探すと、想像以上に選択肢を狭めてしまうリスクがあります。これまでの経験で培った能力を生かして新たな領域にチャレンジするケースや、これまでやりたくてもできなかったことに取り組む方のほうが、転職後の満足度が高いケースが多くあります。また、転職直後の年収や役職よりも、5年後10年後に得られるものを想定して動く方は、そのぶん選択肢が広がるために、心理的満足度の高い仕事に出会える可能性が広がるようです。
2)縁やネットワークを生かし切る
これまでの仕事人生の中で得た人とのつながりをいかに生かせるかどうかも重要なポイントです。転職を検討し始めた時に、過去の上司、同僚、取引先など、自分をよく知ってくれている人的なネットワークを見直し、多様な人にアドバイスやヒントを求めることで思いがけない道が開けることも多いようです。また、自分との距離が近い人には、自分自身の客観的評価について意見を求めることで、新たな可能性や思わぬ課題発見につながるメリットもあります。
3)自分にとっての転職目的、譲れない条件を明確化する
仕事への満足度は多様な変数・観点で揺れ動きます。「自分は何のために転職をするのか?」「何が得られたら成功なのか?」という目的や成功の定義を、自分なりの尺度として明確化しておくことが重要です(できれば活動開始時点で言語化しておくことをお勧めします)。この軸が定まっていないと、隣の芝生が青く見える現象や、見落としていた重要条件を転職後に発見して後悔するということになりかねません。
40歳を超えてからの初めての転職は、人生で数少ない重要なターニングポイントです。不安やリスクを最小に抑えて、ぜひ自分にとって有意義なものにしてもらいたいと思います。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。
