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「足元しっかりと見らんと」 姜尚中氏を打つ母の言葉

2019/4/25

そんな中で長男の自死や東日本大震災を経験し、高度成長期と共に歩んできた自分の人生が音を立てて崩れていくような感覚に陥りました。どう自分を再生するのかを考えた時、東京から離れた場所に身を置くことで、今の自分にしっくりくる、新しい生き方ができるのではないかと考えたのです。

東京を離れ始めた高原での暮らし
豊かな自然と四季の美しさに
心を癒やされ、生きる力が湧いてきた

――山で暮らし始めたことで、どんな変化がありましたか?

都会で感じていた孤独を山が癒やしてくれる。ホッとします。移住した当初は土いじりやガーデニングをする気もなく、妻がやりたいというので始めたのですが、今やそれがどんなに心の支えになっているか。生きた自然、四季の美しさが持つ力を日々実感しています。それまでずっと犬派だったのですが、ラグドールという長毛種の猫も飼い始めました。

今は「食」をメインに暮らしを考えています。食を中心に考えると、自分がこれから生きていくうえでどのぐらいのお金が必要なのかが分かってくる。「誰と一緒に食事をしたいか」を考えると、大事な人間関係も分かる。そして、自分の健康もそこに付随する。

僕の場合、朝は野菜とパンとスープ、お昼はそばがあればいいからそんなにお金はかからない。投資はしないので大儲けはしていないのですが(苦笑)、ある程度の蓄えがあれば田舎暮らしを続けていけると思っています。

「一身にして二生を経る」というけれど、僕は三生を経ているのかもしれない、と思います。

朝鮮戦争が始まった年に熊本に生まれ、日本名・永野鉄男として過ごしていた頃。次に学生時代、軍事独裁下の韓国・ソウルを訪れ自分の運命について思索し、姜尚中として生きていくことを決めたとき。そして子供を亡くし、東日本大震災を経てたどり着いた今の自分。この第三の転換期に、東アジア情勢もまた大きく変わろうとしている。因果のようなものを感じています。

――18年10月に上梓したエッセイ『母の教え』には、来し方や東京を離れて得た気づき、さらに田舎暮らしの醍醐味まで、心の内を率直かつ軽快につづられていますね。

これまで意見や考えを発信する際は私的な世界、プライベートな自分と切り離すべきだという思いがありました。でも、結局それでは伝わらない。ある程度自分をさらけ出さないとなかなか伝え切れないと考えるようになりました。

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